研究課題/領域番号 |
20K05456
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
平原 将也 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 応用科学群, 講師 (90609835)
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研究分担者 |
上北 尚正 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 応用科学群, 准教授 (50373402)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 抗がん剤 / ルテニウム / 光反応 / 配位子交換反応 |
研究実績の概要 |
がんの薬物療法において、副作用を抑え、かつがん細胞選択的な抗がん剤を開発することは喫緊の課題である。シスプラチンに代表される金属錯体由来の抗がん剤は、DNAの塩基に配位し、がん細胞の分裂を抑制する。しかしながら既存の抗がん剤は副作用が強く細胞選択性に問題点があった。近年では、金属錯体の光配位子交換反応を利用した光駆動型の抗がん剤の報告があるが、正常細胞とがん細胞を見分ける機構は本質的に備わっていない。 本研究では、中性付近の環境にある正常細胞とやや酸性の環境下にあるがん細胞の間のpHの違いに着目した。錯体の光配位子交換反応をpHによって制御できれば、細胞選択的な光駆動型抗がん剤を開発できるのではないか考えた。この仮説を立証するために、近年我々が見出した、脱プロトン化によって配位子の光解離が劇的に変化するルテニウムピラゾール錯体を研究対象とした。本錯体は、酸性条件ではピラゾール配位子が容易に光解離する一方、脱プロトン化によりN-H…N分子内水素結合が形成されると、ピラゾールの光解離が大幅に抑制される。 本課題では、①一連のルテニウムピラゾール錯体を合成し、②水溶液中での光反応性を評価した後、③細胞に対する抗がん活性の評価を行うという3つのステージで、研究分担者と密に連携して研究を展開した。 研究初年度である2020年度は、様々なピラゾール誘導体を用いて種々のルテニウム錯体を合成し、その反応性を検討した。それぞれの錯体は紫外可視吸収スペクトル、NMRおよび単結晶X線構造解析より同定を行った。吸収スペクトルから錯体のpKaは、小さいもので3程度、大きいもので10程度であった。錯体の光反応性もpKaの前後で二桁以上異なることが確認された。得られた錯体の一部は、がん細胞を用いて光駆動型の抗がん剤としての評価を行った。この結果、一部の錯体の抗がん活性はシスプラチンをも上回ることが確認された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
分子内水素結合を有するルテニウム錯体の抗がん活性を調査するために、電子吸引性の置換基を導入したルテニウムピラゾール錯体を合成した。錯体のN-Hプロトンの解離はピラゾール配位子の置換基の電子吸引性に相関し、pKaが3から10まで調整可能であることが分かった。それぞれのルテニウム錯体の抗がん活性を肺がん細胞A549を用いて調べところ、いずれの錯体も光照射によって抗がん活性が上昇した。これはピラゾール配位子が解離し、溶媒の水配位子が配位したルテニウムアクア錯体が系中で得られたためである。一方、光を当てない条件でも抗がん活性が見られ、錯体そのものが暗所下でも配位子交換反応を示すことが示唆された。 A549 に対するIC50を調べたところ、一部の錯体のIC50は金属錯体由来の抗がん剤として知られるシスプラチンより二桁小さく、高い抗がん活性があることが分かった。
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今後の研究の推進方策 |
今後は前年度の結果をまとめ学術誌に投稿するため、研究分担者とともに細胞死したがん細胞の割合を定量的に評価する。また、正常細胞を用いた対照実験も実施する予定である。 前年度の結果から、暗所下と光照射下での抗がん活性は一桁程度しか変わらなかった。より光選択的な抗がん剤を目指すため、暗所下では光配位子交換反応を起こさないような錯体の分子設計を行う。 これらの研究と並行して、ルテニウム錯体の側鎖に疎水部を導入した錯体を合成し、リン脂質と混合することで錯体混合ベシクルを作製する。錯体の光応答性を利用して、ベシクルをキャリアとしたドラッグデリバリーシステムの構築を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
次年度使用額が生じた理由:①コロナ禍で軒並み学会がオンラインになり、旅費に充てる必要がなくなったから。②2021年度から異動することとなったため。 使用計画:備品として研究室立ち上げに必要なポンプ、試薬棚、光源の購入を予定している。そのほか研究の遂行に必要なガラス器具・試薬など消耗品を購入する予定である。
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