研究課題
研究最終年度(2022年度)においては、当初から研究を継続していた、<テーマ1>ルテニウムピラゾール錯体による光応答型抗がん剤の開発 と並行して、<テーマ2>外部刺激応答性金属錯体を用いたDNA部分構造との反応性評価を遂行した。<テーマ1>2021年度に引き続き、ルテニウムピラゾール錯体を用いた、光応答型抗がん剤の開発に取り組んだ。昨年度では置換基を導入したルテニウムピラゾール錯体が、光照射下において肺がん細胞に対して高い抗がん活性(IC50 = 10-8 M)を持つことが分かっていた。2022年度は主として、対照実験を追加して行った。ルテニウムピラゾール錯体が光照射によってピラゾール配位子が解離していることを、1H NMRならびに紫外可視吸収スペクトルによって定量した。更に、光照射下において、金属錯体が一重項酸素が生成していないことを実験的に確かめた。以上の実験から2021年度に見出した金属錯体の高い抗がん活性は、当初想定したメカニズム通り、光照射による選択的な配位子の光解離によるものであることが判明した。2021年度の結果を統合し、研究成果を論文投稿するに至った。<テーマ2>外部刺激に応答し、光および熱異性化するルテニウムアクア錯体を用いて、DNAの部分構造である9-エチルグアニンとの反応性の検証を行った。ルテニウム錯体の二つの異性体(proximal型、distal型)は双方ともに9-エチルグアニンと反応(アダクト形成)するが、アダクト形成反応において、二つの異性体の間で反応速度に1桁の差があることが1H NMR 測定により明らかとなった。したがって、金属錯体由来の薬剤となりうるルテニウム錯体とDNAとの反応性を外部刺激によって自在に制御できることが実験的に示された。このテーマについても論文を2022年度末に投稿した。
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