本研究課題では、多彩な固体発光を示す凝集誘起発光(AIE)分子を創製し、そのメカノフルオロクロミズム(MFC)特性を解明することを目的とした。 令和4年度は、標的分子群、テトラキス(5-アリール-2-チエニル)チオフェン(Ar-TTE)のMFC特性評価を実施した。AIE特性を有する標的分子の結晶性固体は発光性であり、アリール基の違いに応じて異なる固体発光特性[発光波長(発光色)、発光量子収率]を示した。結晶性固体は磨砕によってアモルファス化し、分子配列(分子間相互作用)の変化をトリガーとした発光波長のシフトにより、磨砕前後で発光色が顕著に変化した。また、磨砕後のアモルファス性固体を加熱または溶媒蒸気に暴露して再結晶化することで発光色の復元が可能であった。これにより、標的分子が、結晶とアモルファス間の相転移に基づく可逆的なMFCを示すことを証明した。 研究期間全体を通じて、Ar-TTEシリーズが、1)分子内回転運動の抑制に基づくAIE特性を有すること、2) TTE骨格に導入するアリール基の種類によって多彩な固体発光の発現が可能であること、3) 機械的刺激に応答して固体発光色が変化するMFC特性を示すことを実証した。本研究遂行によって構築した「TTE骨格を基軸としたMFC分子ライブラリー」は、MFC特性の発現と制御に必要なAIE性分子の電子的・構造的要因を解明するための一助となると考えられる。 並行して、TTE骨格内のチオフェン環を柔軟なエチレン鎖で架橋したEB-TTE (ethylene bridged TTE)の合成を達成し、分子内振動運動の抑制に基づくAIE特性を有することを明らかとした。これより、EB-TTEが、TTEとは異なるメカニズムでAIEを発現し、MFC特性を有するAIE性分子設計のための新たな基本骨格となることを見出すに至った。
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