研究課題/領域番号 |
20K05461
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研究機関 | 福井大学 |
研究代表者 |
徳永 雄次 福井大学, 学術研究院工学系部門, 教授 (80250801)
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研究分担者 |
小林 長夫 信州大学, 繊維学部, 特任教授 (60124575)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子不斉 |
研究実績の概要 |
申請者らはこれまでに、非対称クラウンエーテルの架橋により、交差構造を持つ不斉クラウンエーテル(2種類)の2種類の合成法を開拓してきた。これらの合成は、目的物のみを合成できる長所があるものの、工程数が長い欠点があった。そこで、短工程で合成を行う方法、即ち、架橋鎖形成反応を一挙に行う方法を検討した。その結果、異性体の生成は伴うものの目的物を主生成物として合成する方法論を見出した。合成を達成した2種の不斉クラウンエーテルは、エチレングリコール鎖をそれぞれ3個及び4個持つ化合物である。得られた不斉クラウンエーテルの金属イオン認識能を、紫外分光法を用いた滴定実験によりそれぞれ実施した。極性溶媒中におけるアルカリ金属イオンの中では、Li+イオンに対する良好な親和性は観測されなかったが、Na+イオンでは中程度の、またK+イオン及びCs+イオンに対して高い認識能を示した。また、等温滴定カロリメトリ―による測定も異なる溶媒を用いて実施し、紫外分光法における滴定と類似の結果であることを確認した。 続いて、合成した2種の不斉クラウンエーテルと第2級アンモニウム塩との分子認識挙動を、核磁気共鳴を用いて観測したところ、擬ロタキサン形成が認められた。そこで、これらのクラウンエーテルと第2級アンモニウム塩を混合した後、形成した擬ロタキサンの末端封鎖をエステル化によって行った。用いたクラウンエーテルには、2種類の環部が存在するため、理論上アンモニウムイオンが2か所で挿入する可能性があり、2種類の異性体がそれぞれ生成する。しかしながら、精製後に得られたロタキサンを生成したところ、それぞれのクラウンエーテルから得られたロタキサンは、それぞれ単一の化合物であった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
研究実績の概要で述べたように、我々が開発した交差構造を持つクラウンエーテルの合成法について、効率的な方法で合成可能であることを確認した。しかしながら、新規の合成法において現在まで、目的物を完全には単離できておらず、立体異性体の混合物として得られている。 一方、上述したようにクラウンエーテルを環部とするロタキサン合成を達成した。本ロタキサンは、異なる種類の交差部を同一分子内、同一部位に有しており、研究目的の1つである交差構造の高次化を達成した。 交差構造の機能化に関しては、得られたクラウンエーテルのイオン認識能を検討したものの、分光学的な相違や複数交差に基づく特性解析に関しては、当初予定していた検討が実施できていないため、やや遅れているものと判断した。
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今後の研究の推進方策 |
まず、本年度検討した工程数の少ないクラウンエーテルの簡易合成法の最終生成物の単離法を確立する。その後、本法を用いそのラージスケールでの合成を実施する。続いて、得られた交差型クラウンエーテルの交差構造に由来する分子認識特性について検討する。具体的には、金属イオン認識について、交差構造を持つものと持たないクラウンについて同一条件にて検討し、その認識能の相違について考察する。また、交差型不斉クラウンの分子認識によって生じるコンフォメーション変化に由来する分子不斉を分光学的な変化を観測する。 本年度、合成を行ったロタキサンの構造決定を行う。理論上2種類のロタキサンが得られるところ、単一の化合物として単離された理由の考察を構造決定とともに実施する。同時に、クラウンエーテルに存在する不斉部の軸に対する影響について核磁気共鳴等の解析により行う。即ち、クラウンエーテルに存在する不斉部を共有結合を介さずともスルースペースによって及ぼす不斉空間の制御について検討する。また、複数のロタキサンユニットを持つ高次ロタキサン合成を実施し、両ロタキサンユニット間の不斉環境の影響についても議論する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍で、大学での研究活動が一時的に制限や制約を受け、研究の実施が計画通り実施できなかったところがある。また、学会の開催がWEBでの開催になり、予定していた旅費を使用しなかった。以上により、今年度未使用研究費が生じ、次年度使用額が生まれた。 今後、集中的に本研究を実施する予定であり、次年度の経費として使用する予定である。一方で、学内機器使用料や寒剤費の増額もありその経費に充てること、また研究の実施が出来なかった場合には研究期間の延長も視野に入れている。
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