研究課題/領域番号 |
20K05463
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研究機関 | 京都大学 |
研究代表者 |
田中 隆行 京都大学, 理学研究科, 助教 (20705446)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 二重らせん分子 / 動的構造変化 / 求核置換反応 / X線結晶構造解析 / キラリティ / 近赤外光吸収 |
研究実績の概要 |
共役二重らせん分子の開拓を進めるべく、末端にベンジルアミンを導入したジベンジルアミノトリピリンを合成した。溶液状態における二量化会合定数の低下がみられたが、単結晶構造解析の結果から、一重らせんと二重らせん状態の共結晶状態が観測された。このように固体状態で二種類のらせん状態が絡み合った構造が得られるのは稀有であり、DFT計算による最適化構造との比較から種々の弱い相互作用が関与していることを明らかにした。また、末端に光学活性なフェニルエチルアミンを置換することで、一方のらせんのキラリティを誘起することにも成功した。 トリピリンの両端に異なる置換基を導入する方法も開発した。一等量の3,5-トリフルオロメチルフェニルアミンを作用させることで片側をキャップし、反対側には酸触媒を加えることで種々のアミン類を置換することができた。また、酸触媒を利用せずマイクロ波照射下で高温にして合成することもできた。得られた非対称型ジアミノトリピリンの二量化会合挙動について溶液中および固体中で精査した。さらに、柔軟なアルキル鎖で繋がったジアミンを用いて反応を行うことで、ジアミノトリピリンの二量体を得ることに成功した。アルキル鎖の長さを変えることで様々な柔軟性のジアミノトリピリン二量体を得ることができ、その会合挙動を高極性溶媒(DMSO)中および低極性溶媒(ベンゼン)中で解析した。この二量体は目的とする動的構造変化と光物性変化を達成するための鍵化合物であり、更なる展開を可能とする有望な分子である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
ジアミノトリピリンという新規開発した分子が溶液中で溶媒極性に応じた構造変化を起こすのみならず、固体状態でも異種二分子会合体や互変異性体をとるという知見は当初の期待を良い意味で裏切る結果であり、我々が得意とするX線結晶構造解析がこの化学の推進と関連分野との差別化において重要な役割を果たすことを強く意識できた。新規分子の合成法も改良することができ、想定以上に研究は進んでいる。今後、らせんポリマーの合成や、外部刺激応答性についてより体系的な知見を見出していきたい。また、この動的ならせんモチーフは異なる研究テーマにも波及効果があり、研究室内で別途展開しているアザヘリセンにおいても動的構造変化と刺激応答に対して興味がもたらされ、実際に光開裂反応や光学分割などの新たな結果に結びついている。
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今後の研究の推進方策 |
合成に成功した柔軟なアルキル鎖で連結したジアミノトリピリン二量体の構造解析を行い、ホモダイマーおよびヘテロダイマーの構造同定、および溶液中での挙動の解明を行う。温度可変NMR測定を行い、二量化における熱力学パラメータを算出し、単量体と比較する。そのような解析かららせんポリマーを得るための分子デザインを確立し、ポリマー合成に展開する。 また、トリピリンのメゾ位に立体障害の小さなエステル基を導入した新たなトリピリンを合成し、その二量化会合挙動と加水分解による水溶化、ミセル合成などへの展開を模索する。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年4-5月、および2021年1月における研究活動が感染症対策のために制限され、当初予定だった物品の購入を見送った。また、多くの学会が中止またはオンライン開催となり旅費も必要なくなった。 代わりに、在宅活動期間にオンライン招待講演会を実施しその謝金が発生した。在宅活動期間に論文執筆を行い、研究結果を公表した。その際の英文校閲費用に使用した。 次年度使用額が生じた分については、学会出張を控えめに計算した上で物品の購入計画を考え、試薬やガラス器具などの消耗品の購入に充てる予定である。また、成果を公表するためのオープンアクセス費用や英文校閲にも引き続き使用する。
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