研究実績の概要 |
ベンゼン環が直線方向に縮環したアセンは優れた光および電子機能を示すため有機半導体として有望であるが、可視光と酸素の両方にさらすと光分解が進むため、高い光耐久性を有する誘導体の開発が重要である。アセンの1つとしてテトラセン誘導体に着目し、光耐久性を極限にまで高めたテトラセン誘導体を目指して、アセンとしての性質を大きく損なうことのないように、インデンまたはシクロペンテン縮環を行った合成を行った。クロスカップリング反応の足掛かりとなる臭素原子を導入したインデノテトラセン誘導体を出発原料に用い、薗頭カップリング・鈴木-宮浦カップリング・シクロペンテン縮環を行った分子を合成した。インデン縮環に関しては、テトラセンの4つあるベンゼン環(端から順にA, B, C, D環と呼ぶ)の片側のB,C環の位置、シクロペンテン縮環については、反対の片側のC,D環の位置にもつものが、高い光耐久性をもつことを明らかにした。さらに、シクロペンテン環にメトキシフェニル基を有する誘導体を合成し、Scholl反応を用いて脱水素閉環による共役系の拡大を行った。この共役系が拡大された分子は、閉環前よりもむしろ光耐久性が低下し、共役系の拡大は光耐久性に重要な分子設計ではないことを明らかにした。新しい誘導体合成の試みとして、出発原料をテトラセンでなく、その還元体であるテトラヒドロテトラセン(シクロヘキサン縮環アントラセン)に変えて、インデン縮環部分を異なる芳香族に変更した分子の合成を開始した。
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