研究課題/領域番号 |
20K05471
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
村瀬 隆史 山形大学, 理学部, 准教授 (70508184)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヘリセン / フッ素 / 光反応 / ドミノ反応 / Diels-Alder反応 / πスタッキング |
研究実績の概要 |
末端の芳香環をフッ素化して電子不足にしたF4-[7]ヘリセンは、積層する芳香環の重心間距離が、無置換[7]ヘリセンよりも短くなる。さらに、F4-[7]ヘリセンは、紫外光照射で分子内Diels-Alder反応と前例のない二重フッ素転位反応を連続的に起こす。本研究では、F4-[7]ヘリセンの研究成果を発展させ、結合のみならず空間を介してフッ素が影響を及ぼすフッ素置換ヘリセンで特異な反応を開発し、その機構を解明することを目的とする。 令和2年度は、F4-[7]ヘリセンと比べてフッ素が1個少ないF3-[7]ヘリセンについて、ドミノ光反応性を調べた。Diels-Alder反応におけるジエノフィル部位にフッ素が2個ある場合は、ドミノ光反応が起きた。しかし、F4-[7]ヘリセンと比べて、反応の進行は遅くなった。一方、ジエノフィル部位にフッ素が1個しかない場合は、ドミノ光反応が全く起きなかった。 ジエノフィル部位にのみフッ素が2個あるF2-[7]ヘリセンについても、ドミノ光反応性を調べた。F3-[7]ヘリセンよりも反応性は低下したが、F2-[7]ヘリセンでもドミノ光反応が進行した。フッ素置換[7]ヘリセンがドミノ光反応を起こすためには、ジエノフィル部位にフッ素が2個あれば十分であることを証明した。 F2-[7]ヘリセンの構造は、X線結晶構造解析で確認した。フッ素が4個あるF4-[7]ヘリセンでは、末端のベンゼン環どうしでArH-ArF相互作用が強く働いていたが、フッ素が2個に減少したF2-[7]ヘリセンでは、ArH-ArF相互作用が弱くなっていた。これに伴い、Diels-Alder反応に関与する反応点間の距離も長くなっていた。 上述の研究成果を学術論文にまとめ、Chem. Asian J.誌にて発表した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
令和2年度は、コロナ禍で研究活動が制限され、さらに、研究室メンバーの異動もあり、当初の計画どおりに研究を推進させることができなかった。結果的に研究代表者のみで研究を推進させる必要になったが、論文発表することができた。
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今後の研究の推進方策 |
フッ素置換[7]ヘリセンの光反応性を、導入するフッ素の数や位置を変化させて丁寧に解析することで、フッ素置換ヘリセンの性質が徐々に明らかになってきた。フッ素置換ヘリセンのように芳香環がねじれた化合物を、光照射で有用な物質に変換することが今後の課題である。令和3年度は、ヘリセン骨格に硫黄原子を導入したチアヘリセンを基盤として、フッ素置換ヘリセンの化学を展開する。 現在、新たに研究室メンバーを加えて活動しているが、再びコロナ禍で研究活動が制限される可能性がある。効率のよい合成法の探索、ならびに一度に複数の反応を行うことで、大学の実験室で合成に費やす時間が削減されても支障がないように準備する。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍のため、当初対面で行う学会が全てオンラインに変更になり、旅費を使用することがなくなった。今後もオンライン学会が続く場合、旅費を物品費に計上して、研究の推進を図る。
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