研究実績の概要 |
[7]ヘリセンの末端のベンゼン環にフッ素を4個導入すると、ドミノ光反応が起きる(Commun. Chem. 2018, 1, 97)。スチルベン誘導体の酸化的光環化で生成するF4-[7]ヘリセンは、光誘起Diels-Alder反応により上下のベンゼン環が架橋する。さらに光照射で芳香族化を駆動力として、フッ素が2個転位する。一方、縮環数が1個異なるF4-[6]ヘリセンやF4-[8]ヘリセンでは、光と熱の両方でDiels-Alder反応が起きない。令和4年度は、ドミノ反応性を示す新たなフッ素置換ヘリセンを設計した。 末端がフッ素化されたチア[6]ヘリセン(F4-チア[6]ヘリセン)は、電子豊富なチオフェン環(ジエン)と電子不足なF4-ベンゼン環(ジエノフィル)との間でフロンティア軌道の位相が重なるため、Diels-Alder反応が起きると考えた。スチルベン誘導体の酸化的光環化でF4-チア[6]ヘリセンの合成を試みたが、脱水素(-2H)に優先してC-S結合が切断された。そこで、チオフェン環の2位にBrを導入し、脱臭化水素(-HBr)を伴う光環化を行ったところ、F4-チア[6]ヘリセンを収率20%で得た。単結晶X線構造解析より、F4-チア[6]ヘリセンのジエン部位とジエノフィル部位の距離は、F4-[7]ヘリセンよりも離れていた。光反応生成物を詳しく調べると、F2-コロネンが少量含まれており、Diels-Alder反応後に、硫黄と2個のフッ素の脱離が起きていた。この骨格変換は、非平面らせん化合物を押しつぶして、平面円盤化合物にすることを意味しており興味深い。 研究期間全体を通して、フッ素置換[7]ヘリセンが示すドミノ光反応とシリカゲル上での骨格変換を解明した。さらに、フッ素置換チア[6]ヘリセンが、フッ素置換[7]ヘリセンとは異なるドミノ光反応を起こすことを発見した。
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