研究課題/領域番号 |
20K05472
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研究機関 | 東京学芸大学 |
研究代表者 |
山田 道夫 東京学芸大学, 教育学部, 准教授 (00583098)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | カスケード反応 / 開口フラーレン / リモート化学修飾 |
研究実績の概要 |
令和3年度は、これまでに得た知見を踏まえてフラーレンと反応させる基質の分子設計の見直しを図った。大きな問題点として挙げられたのが、第三級のプロパルギルリン酸エステル構造が熱的に不安定ということである。副生成物の解析により、狙いとするジエン中間体への転位よりもリン酸置換基の脱離によるene-yne体の生成が先んじてしまうことが見出された。そこで種々の検討を行った結果、リン酸エステル構造を炭酸エステル構造へと置き換えることで、安定性の問題を解決できるのではないかとの考えに至った。そこで実際に、両端の二カ所に炭酸エステル構造をもつテザー型基質を設計・合成し、フラーレンC60との反応を試みたところ、銀触媒を用いて加熱反応を行うことで主として4種類の生成物を与えることが見出された。それぞれについてHPLCにより分取し、MALDI-TOF質量分析を行ったところ、当初目指していた二カ所に開口部をもつフラーレン誘導体の生成を指示するスペクトルを得ることに成功した。可視吸収スペクトルでは、4つの生成物それぞれ異なる特徴をもつ波形が得られたことから、開口部位の異なる異性体であると考えられる。モデル分子の理論計算を行ったところ、trans-3位に付加反応が進行し、さらなる開口反応を経て異性体が生じたと考えられる。一方で、生成物の溶解性が低く、NMRによる十分な構造解析には至っていない。また、生成物の純度に関しても十分な情報が得られていない。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
両端の二カ所に炭酸エステル構造をもつテザー型基質を設計・合成し、フラーレンC60との反応を試みることによって、主として4種類の生成物を与えることが見出され、それぞれについてHPLCにより分取し質量分析を行うことで、当初目指していた二カ所に開口部をもつフラーレン誘導体の生成を指示するスペクトルを得ることに成功している。可視吸収スペクトルでは、4つの生成物それぞれ異なる特徴をもつ波形が得られており、開口部位の異なる異性体の生成を示唆する結果といえる。一方で溶解性が低く、十分な構造解析には至っていない。しかし、溶解性の問題に関しては、今後溶解性を高める置換基を導入することで解決することができると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
付加構造の解明には、NMR解析および単結晶X線構造解析が不可欠である。また、それを遂行するために充分な量の合成に加え、生成物が十分な溶解度と結晶性を併せもつ必要がある。これに対して、溶解性向上と結晶性向上に資すると期待される置換基を導入した基質の分子設計の改良を行い、その合成ルートの策定もすでに進めている。なお分子設計においては極性置換基も導入することで、溶解性・結晶性に加えて分離能の向上も図る予定である。令和4年度は、新たに設計し直した基質合成およびフラーレンとの反応による二穴開口フラーレンの合成および詳細な構造解析を実施する予定である。一方、これと平行して、単純な構造を有するプロパルギル炭酸エステルとフラーレンとの反応性を検討し、その詳細な反応機構の解明にも挑む予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和3年度も新型コロナウィルス感染症対策として研究活動の時間短縮を行っていたために実験に要する物品費の支出が減る結果となった。本年度は購入予定だったフラーレンC70や金属内包フラーレンを含む試薬や不足しているガラス器具類などの購入に充てるほか、HPLC関連部品の購入および老朽化したエバポレータ関連部品の購入などに充てる予定である。
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