研究課題/領域番号 |
20K05476
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
重光 保博 長崎大学, 工学研究科, 教授 (50432969)
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研究分担者 |
北條 博彦 東京大学, 生産技術研究所, 教授 (20357940)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子動力学法 / 分子軌道法 / 分子集積体 / 非平衡状態 / 水素結合 / 反応速度理論 / 自由エネルギー曲面 |
研究実績の概要 |
凝縮系の化学反応速度は、室温・低圧の通常の条件下では、全系が一体的に化学平衡を保って進行する遷移状態理論で通常は解釈される。しかし、凝縮系の動的構造や化学反応における化学平衡仮定の正当性については、理論・実験の両面から体系的な検証が行われていない。化学平衡から外れた系のダイナミクスに関する過去の研究は、ブラウン運動駆動の粗視化方程式であるFokker-Planck方程式は溶液系やタンパク質ダイナミクスに、物性物理分野の平均場理論・相転移理論はリジッドマテリアルに、それぞれ数多く適用されている。しかし、両者の境界領域である分子集積体のような動的構造を有するソフトマテリアルの挙動解析は未開拓のまま残されている。本研究の足掛かりは、分子集積体の非平衡ダイナミクスが高粘性溶媒中で生起する動的溶媒効果と同じ物理化学的本質を有することに着目した点である。本研究は、水素結合ネットワーク分子集積体を対象として、非平衡解析手法(凍結クラスター計算法)と粗視化手法を組み合わせ、分子集積体の動的構造・光物性を理論と実験の連携の下で解明することを目指す。分子間水素結合を介した集積体を解析対象として、非平衡自由エネルギーと粗視化変数の抽出を試みる。 2年目は、分子間水素結合組み換え分子結晶をテスト系として、周辺場を考慮したクラスター計算法による光異性化反応計算を実施した。周辺場を考慮したエネルギー極小円錐交差点(MECI)の解析を試みたが、テスト計算レベルにとどまっている。また、Ewald静電場を組み込んだ分子結晶計算にも取り組んだ。非平衡下の反応速度定数の直接算出法として、一連の遷移状態サンプリング法を用いてその性能を評価した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計算化学アプローチにおいて、電子状態レベル解析と力場ダイナミクス解析を並行して推進した。 まず、励起状態電子移動を伴う分子間水素結合組み換え分子結晶をテスト分子として、空間的に束縛された分子結晶において周辺場を考慮した一連のクラスター計算法に基づく光異性化反応計算を実施した。さらに、QM/MM、QM/QMと組み合わせた凝縮系でのエネルギー極小円錐交差点(MECI)の解析を試みたが、アルゴリズム上の限界と数値安定性のため、テスト計算レベルにとどまっている。 次に、非平衡下の化学反応速度定数をダイレクトに計算する手法として、遷移状態パスサンプリング(TPS)の一種である遷移境界サンプリング(TIS)、非平衡状態下でも使用可能な前進流束サンプリング(FFS)をアゾベンゼン異性化反応速度定数解析への適用を試みた。 また、緩い分子間水素結合で構成されるソフト集積体への応用例として、生体由来物質を使用したナノコンポジット材料の生成メカニズムとその化学的安定性について、溶媒和自由エネルギー計算に基づく解析についても取り組んだ。
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今後の研究の推進方策 |
励起状態電子移動を伴う分子間水素結合組み換え分子結晶系を対象として、その分子内/分子間水素結合の強弱がもたらす多様な分子結晶多型の生成メカニズムについて、近接分子とEwald静電場の両方を取り込みつつ、引き続き理論解析を行う。 非平衡自由エネルギーと反応速度定数について、メタダイナミクス法・遷移状態サンプリング法等に基づく分子動力学法によって定量的に算出することを目指す。 また、粗視化変数の抽出のため、力学系理論や繰り込み理論等の数理科学的考察も併せて進める。
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次年度使用額が生じた理由 |
対面での学術活動(学術集会・研究打ち合わせ等)が制限された時期があり、オンライン会議等に切り替えたために当初計上していた旅費が未使用となった。次年度以降、対面で再開される予定の国際シンポジウム等の参加旅費として適切に執行する。
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