研究課題/領域番号 |
20K05479
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研究機関 | 東邦大学 |
研究代表者 |
渡邊 総一郎 東邦大学, 理学部, 教授 (10287550)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ヘリセン / 多環芳香族化合物 / マクロサイクル / キラリティー |
研究実績の概要 |
前年度に合成に成功した、アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体の性質の検討をおこなった。 2種類のエナンチオマー(P,P-体とM,M-体)をキラルカラムにより光学分割したのち、一方のエナンチオマーを加熱したところ、ラセミ化反応が進行した。複数の温度でラセミ化反応を行い、ラセミ化反応の熱力学的パラメーターを算出した。 アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体のアルキン部分の反応性を検討するために、ジエンとのDiels-Alder反応をおこなった。高温で反応させたところ、2箇所のアルキンの両方に付加反応が起こった生成物が得られた。一方、片方のアルキン部分のみ付加反応が進行した付加体は確認されていない。Diels-Alder反応生成物は各種有機溶媒への溶解度が低く、結晶性も十分でなかった。現時点では1H NMRの測定データのみから構造決定しているが、今後、他の化合物データも収集し構造を確実にしたい。特に2箇所に形成された新たな環構造および、元から存在するマクロサイクルの立体的関係性に関しては有力な情報がなく、更に検討が必要である。 ヘリセン構造を含む別の化合物として、本研究室ではすでにトリプル[5]ヘリセンを報告している。本年度の検討として、トリプル[5]ヘリセンにベンゼン環を追加した構造を持つ、トリプル[6]ヘリセンセンの合成も検討した。当初計画した合成経路では、溶解度の低さから前駆体の合成が困難であり、分子設計を再考する必要があることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
前年度は、新型コロナウイルス感染症の影響で研究がやや遅れていた。当該年度は、感染症の影響はある程度改善されたものの、十分な研究環境の確保が難しい時期もあり、予定の検討段階まで状況を回復することができなかった。 芳香族炭化水素の溶媒への溶解性の低さが、たびたび研究の進行の妨げとなった。標的化合物に溶解度向上のための置換基を導入するなどの検討を行うことで、状況を改善したい。
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今後の研究の推進方策 |
アルキン架橋[5]ヘリセン環状二量体のエナンチオマーの結晶化を試み、X線結晶構造解析を行たい。構造解析が成功した場合は、ラセミ体とエナンチオマーの立体構造の特徴を比較したい。また、密度汎関数法とCDの測定結果の組み合わせから想定される立体化学が、X線結晶構造解析の結果と同じかどうかを明らかにしたい。 これと類似の化合物で蛍光性を持つ化合物があるため、その合成経路を確立したい。標的化合物の合成を達成したのちは、キラリティーと分光学的性質の関係性を明らかにするために、CD、CPLなどの測定を行っていく予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
新型コロナウイルス感染症の影響から完全に脱することができず、研究に割ける時間が想定していたより少くなり、当初予定していた予算額を執行するに至らなかった。研究スピードを向上させるために、執行できていない予算を有効利用したい。実験操作の中で時間と労力が特に必要となる後処理段階を改善するために、 カラムクロマトグラフィーシステムを導入する予定である。これを購入しても、消耗品費はある程度確保できる見通しである。また、論文発表の際にオープンアクセスにすることも検討したい。
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