研究課題/領域番号 |
20K05484
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研究機関 | 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群) |
研究代表者 |
小泉 俊雄 防衛大学校(総合教育学群、人文社会科学群、応用科学群、電気情報学群及びシステム工学群), 応用科学群, 教授 (60225349)
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研究分担者 |
林 正太郎 高知工科大学, 環境理工学群, 講師 (00532954)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 交差共役 / デンドラレン / 骨格変換 / クロスカップリング反応 / 凝集誘起発光 |
研究実績の概要 |
我々はこれまでに、1,3-ブタジエン([2]デンドラレン)骨格を主鎖に有する交差共役型高分子に対してDiels-Alder反応を適用し、アルケン骨格を有する共役型高分子への変換に成功している。この変換反応では、必然的にブタジエン骨格はZ型の環状アルケン骨格となるため主鎖がねじれ共役が拡張しにくい。そこで、モデル反応として2,3-ジアリール[2]デンドラレン(2,3-ジアリール-1,3-ブタジエン)にチオール・エン反応を適用し、E型アルケンへの変換を検討した。 まず、光ラジカル開始剤である2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン(DMPA)を用いてジアリール[2]デンドラレンの一つである2,3-(p-トリル)-1,3-ブタジエンジ(1)とベンジルメルカプタン(2)との反応を行った。条件を詳細に検討したところ、DMPAを1に対して5 mol%用い、ジクロロメタン中、365 nmの紫外線を室温で20時間照射することで80%以上の収率で1,4-付加体である目的物が得られることがわかった。2は1に対して10当量必要であった。生成物のE/Z比を1H NMRにより確認したところ、95 : 5であり、ほぼE体のみであった。次いで、熱ラジカル開始剤を用いて同様にチオール・エン反応を行った。5 mol%のアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、過酸化ベンゾイル(BPO)、ジ-tert-ブチルペルオキシド(DTBP)を用いて、クロロベンゼン中で加熱して20時間反応を行った。その結果、熱ラジカル開始剤の種類によらず定量的に目的物が得られ、E/Z比は70 : 30であり、DMPAを用いた場合に比べて、Z体が多く生成する傾向にあった。芳香族チオールであるチオフェノールを用いた反応では、光および熱ラジカル開始剤のいずれも場合も収率は20%程度低下したが、E/Z比は2を用いた場合と同じであった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度の実施計画では、2,3-ジアリール[2]デンドラレン(2,3-ジアリール-1,3-ブタジエン)の合成と光物性評価、特に、凝集誘起発光の評価が含まれていた。しかし、当該年度当初からのコロナ禍の影響のため、準備がより整っていたチオール・エン反応の検討に着手した。この研究課題は、研究計画調書の「本研究がうまく進まない時の対応」に記載している。 現在の状況を考えれば実験量の減少はやむを得ないとしても、上述したように研究自体は概ね順調に推移し、2,3-ジアリール[2]デンドラレン骨格へのチオールの付加反応は収率良く進行することが明らかとなった。さらに、光ラジカル開始剤を用いた場合は、ほぼE体のみが得られることが明らかとなった。また、熱ラジカル開始剤を用いた場合は、さらに収率が向上し定量的に生成物が得られるが、Z体がより多く生成することが明らかとなった。
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今後の研究の推進方策 |
令和3年度は、前年度のモデル反応の結果を踏まえて [2]デンドラレン骨格を含有する交差共役型高分子を用いたチオール・エン反応を検討する予定である。もし、モデル反応の結果が高分子反応においても反映される場合、光ラジカル反応ではほぼE体のみからなる共役型高分子の合成が可能となるはずである。また、熱ラジカル反応では、30%程度のZ体を含む高分子が得られると予想される。モデル反応および高分子反応前後の光物性等の評価も実施する予定である。 令和2年度に実施できなかったデンドラレンの凝集誘起発光について検討を加える予定である。交差共役型化合物であるデンドラレン類の発光現象に関する研究は全くない。そこで、既に我々が見出した炭酸プロパルギルエステルと芳香族ボロン酸とのパラジウム触媒カップリング反応によりいくつかのデンドラレン類を合成し、光物性を中心に検討する予定である。 今年度予定の研究が順調に推移しない場合、あるいは、予定以上に研究が進行した場合は、新規1,3-ジエン合成の検討を計画している。既に、炭酸プロパルギルエステルと酸素求核剤とのパラジウム触媒反応で収率は高くないものの1,3-ジエンが生成することを見出している。1,3-ジエンの2位にエーテル酸素を有する化合物の合成は困難であることから、有用な1,3-ジエン誘導体の合成手法の一つとなることが期待できる。
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次年度使用額が生じた理由 |
最終的に残額は約81万円に達した。この主な理由は、コロナ感染防止対応のため研究室が一時期閉鎖状態となり、また、学会等への出張ができなくなったためである。このため、研究に要する経費(試薬等の消耗品および備品の購入、国内外の学会参加等の経費)が予定よりも大幅に減少した。今年度は感染防止対策を実施しながらも研究室は運営できていることから、試薬等の消耗品を中心に物品購入する予定である。また、研究室の空調が故障し使用不能になったことから更新することを計画している。学会参加に関しては依然不透明な部分があるが、オンラインでない場合を想定して旅費としての使用も計画している。
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