研究実績の概要 |
本研究では、炭素の混成状態が変わることで過剰反応が抑制される現象を「生成物の形を変える反応設計」としてその基盤に据え、これを発展させて独自の有機フッ素化合物合成の体系を構築することを目指す。 本研究におけるアプローチは、(I)これまでの成果の拡張 と、(II)二次中間体調製への展開 の2つの段階に分けられる。 令和2年度は、段階(I)にあたる1,1-ジフルオロシクロプロパンの選択的活性化を実現した。具体的には、1,1-ジフルオロシクロプロパンに対してジメチルアルミニウムクロリド存在下、種々のアレーンを作用させた。反応基質が有していた二つのフッ素置換基のうち一つが失われ、代わりに新たにアリール基が導入された1-アリール-2-フルオロプロペン誘導体を高収率で得た。生成物である1-アリール-2-フルオロプロペン誘導体からさらにフッ素置換基が失われたような生成物(過剰反応生成物)は全く見られなかった(選択的活性化)。 本反応ではまず、sp3混成炭素上のフッ素置換基がアルミニウムルイス酸により脱離している。ついで、生じたカルボカチオンが i) 環拡大と ii) Friede-Crafts型アリール化を起こしている。 この成果は、これまでトリフルオロメチル化合物に限られていた反応基質をジフルオロシクロプロパンに拡張したものであり、本反応が基盤とする「生成物の形を変える反応設計」の適用範囲の広さを示すものである。なお、反応基質である1,1-ジフルオロシクロプロパンは、ジフルオロカルベンとアルケンの[2+1]付加環化で簡便に調製できる。
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