研究実績の概要 |
生物活性物質や機能性材料の中にはその部分構造としてジエン構造を有する化合物が多くみられる。従って、その効率的な合成手法の開発は重要な課題である。本研究では、ホウ素置換基を有するトリエンへのヒドロシランの付加反応による「ホウ素置換基とケイ素置換基を同一炭素上に有するジエン化合物」である1-ボリル-1-シリル-2,4-ペンタジエン誘導体の合成法を確立する。さらに、1-ボリル-1-シリル-2,4-ペンタジエン誘導体の中のホウ素置換基とケイ素置換基間の反応性の違いを利用して複数の結合形成反応を連続的かつ選択的に行う。すなわち、ジエン誘導体のシリル基とボリル基間での選択的なアリル転位を伴うカルボニル化合物への付加反応やクロスカップリング反応などを組み合わせて行うことにより連続的かつ選択的な結合生成反応を実現する。これにより様々なジエン化合物の選択的かつ効率的な合成法を確立する。 トリエニルホウ酸エステル誘導体のヒドロシリル化反応を行うに先立ち、より調製が容易なブタジエニルホウ酸ピナコールエステル誘導体と種々のシラン類との反応に関して、基質のスコープを明らかにした。その結果、シランとしては比較的酸性度の高いシランを用いると高収率で、対応する1-シリルアリルボラン誘導体が生成することを明らかとした。また、触媒としてはトリアルキルホスフィンを有するモノ(ホスフィン)パラジウム(0)錯体が高い活性を有することも明らかとなった。この知見をもとにトリエニルホウ酸ピナコールエステルのヒドロシリル化反応を行うことで、1-シリル-2,4-ペンタジエニルボラン誘導体の合成に成功した。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度はトリエニルホウ酸ピナコールエステルのトリフェニルシランによるヒドロシリル化反応を行うことで、1-シリル-2,4-ペンタジエニルボラン誘導体の合成法に確立することに成功した。令和3年度以降は、さらに本手法の一般性や基質の適用限界を明らかにし、様々な1-ボリル-1-シリル-2,4-ペンタジエン誘導体の合成を行う。さらに、1-ボリル-1-シリル-2,4-ペンタジエン誘導体を用いた連続的結合生成反応を行う。すなわち、1-ボリル-1-シリル-2,4-ペンタジエン誘導体を用いたカルボニル付加反応や鈴木・宮浦反応などのクロスカップリング反応、玉尾酸化などを組み合わせることで、連続的かつ選択的な結合生成反応による有用化合物の合成を行う。例えば、1-ボリル-1-シリル-2,4-ペンタジエン誘導体とカルボニル化合物との熱的条件下でのアリルボランとしての反応によるビニルシラン型化合物の生成に引き続くBrook転位を経由したアルキル化反応もしくは玉尾酸化反応や、1-ボリル-1-シリル-2,4-ペンタジエン誘導体とカルボニル化合物とのルイス酸に促進された2,4-ペンタジニルシランとしての反応によるビニルボラン型化合物の生成に引き続く鈴木・宮浦反応などを検討する。同様に、異なるホウ素置換基を有するトリエンのヒドロシリル化により合成した1,6-ジボリル-1-シリル-2,4-ヘキサジエン誘導体を用いて三連続的かつ選択的な結合生成反応を行う。また、光学活性配位子を有するパラジウム触媒を用いた不斉ヒドロシリル化反応により光学活性1-ボリル-1-シリル-2,4-ペンタジエン誘導体を合成し、光学活性な有用化合物の合成へ展開する。
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