研究課題/領域番号 |
20K05497
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研究機関 | 九州大学 |
研究代表者 |
山本 英治 九州大学, 理学研究院, 助教 (70782944)
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研究分担者 |
徳永 信 九州大学, 理学研究院, 教授 (40301767)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | アズラクトン / アルコール分解 / 相間移動触媒 / アミノ酸エステル / 優先富化 / シンコナアルカロイド / 四級アンモニウム塩 / ConFinder |
研究実績の概要 |
2021年度では、シンコナアルカロイド由来のキラル四級アンモニウム塩を相間移動触媒として用いてアズラクトン類の不斉加アルコール分解反応の開発の基質検討および反応機構解析を行った。また、不斉酸塩基触媒を用いた窒素求核剤によるアズラクトン類の開環反応を検討した。
アズラクトンの不斉加アルコール分解については、α位に立体障害の大きな三級の置換基を持つアズラクトンに対して極めて高い立体選択で反応が進行し、対応する非天然アミノ酸エステルを良好な収率で得た(61-87%収率、88-97% ee, 5例)。また、このα位の置換基が二級、一級と小さくなるにつれ選択性が大きく低下する。また、幅広い一級アルコールが求核剤として適用可能であり、t-Leucine由来のアズラクトンに対してほとんどの場合で90% ee以上の選択性で目的生成物を与えた。反応機構解析に関しては、Hammet則に基づく解析に加えて、Confinderを用いた配座探索やDFT計算による反応機構解析を行った。計算実験の結果、本反応には求核剤となるアルコール分子に加えて、さらにもう一分子のアルコールや水などの水酸基が反応の立体選択性発現にとって重要であることが明らかにされた。
また、不斉塩基触媒を後板窒素求核剤によるアズラクトンの開環反応を検討したところ、Bocヒドラジンを求核剤としたときに中程度の収率、立体選択性で目的の開環体が得られることを見出した。さらに生成物のアミノ酸ヒドラジドでは低い光学純度でもラセミ体が優先的に析出し、溶液の光学純度が上がる現象が確認できた(優先富化現象)。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本年度では、予定していた通り、Hammet則に基づく解析や量子化学計算手法を用いた反応機構解析を実施し、詳細な反応機構を明らかにすることができ、これらの結果をまとめて評価の高い国際誌で発表した (ACS Catal. 2021)。さらに、アズラクトン類の不斉加アミン分解について検討し、中程度の収率、立体選択性で目的生成物を得ることのできる触媒系を見出した。また、この反応における光学活性ヒドラジド類が効率的な優先富化現象を生じ、低い光学純度の生成物から容易に極めて高い光学純度の生成物を得ることができる興味深い現象を見出した。以上のことを踏まえ研究全体として、当初の計画以上に進展していると評価した。
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今後の研究の推進方策 |
今後は、アズラクトン類の不斉加アミン分解に関する研究を進める予定である。本反応は、優先富化現象を利用し、ラセミ体を優先的に析出させることで容易に光学純度を上げることができるが、排除したラセミ体の量だけ収率が低下することになるため、合成的に有用な手法とするには光学的に純粋な化合物の収率が70%を超える程度の反応効率を目標に触媒検討、条件検討を行った後、基質適用範囲を検討する予定である。また、効率的な優先富化現象自体が稀な現象であるため、単結晶X線構造解析などを含めた詳細なメカニズムの調査も実施する。
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