研究課題/領域番号 |
20K05498
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研究機関 | 高知工科大学 |
研究代表者 |
西脇 永敏 高知工科大学, 環境理工学群, 教授 (30237763)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ピリジン / 置換基間反発 / 芳香環活性化 / 環歪み / 共平面性 |
研究実績の概要 |
芳香環修飾の化学の歴史は芳香環を活性化する方法開発の歴史である。実際に置換基の電子的な性質の利用や炭素―ハロゲン結合を利用した活性化は先人達の多大な努力により大きく発展してきたことは改めて言うまでもない。一方、芳香環を高度に湾曲させれば芳香族性が低下して活性化されることも明らかになってはいるものの、これらの基質を合成することは困難であるがために導入できる置換基にも制限があることから、簡便な骨格修飾法としての利用には至っていない。一方、芳香環に適度なストレスを与え、平面性を低下させさえすれば、高度に湾曲させなくても十分に活性化できると考えられるが、このアプローチについては全く検討がなされていない。本研究では、置換基間の立体的な反発のみで芳香環が非電子的に活性化されることを明らかにすることを検討した。 本研究では8位にアルキル基が置換したキノリン環を構築した後、N-メチル化して対応するキノリニウム塩を合成した。このような骨格を有する基質を用いることにより、本研究の目的である、置換基間反発による芳香環の活性化を達成するという手法をできる限り一般的なものとすることが可能になる。この骨格を利用することの利点は、環骨格を構築する際に原料を替えるのみで8位のアルキル基の嵩高さを調整することができる。また、非共有電子対や多重結合を有していないために、単純にアルキル基の立体効果で論ずることができることである。実際に8位の置換基が嵩高くなるに従って、環骨格に歪みが生じ、芳香族性が低下することを明らかにしたが、反応性の比較をする方法論の確立が今後の課題である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
N-メチルキノリニウム塩を基質に用いて検討を行なった。ortho位に様々なサイズのアルキル基を有するアニリンに対してグリセリンを作用させることにより8位にアルキル基が置換したキノリン環を構築した。さらに環窒素のメチル化の検討をしたところ、トリメチルオキソニウム塩をメチル化剤に用いることにより、各基質の合成を達成した。 こうして合成したキノリニウム塩を再結晶して得られた単結晶を用いてX線結晶構造解析を行なったところ、8位の置換基が嵩高くなるにつれて置換基間反発が増大しており、事前にDFT計算で予測したよりも環骨格が大きく歪んでいることを明らかにした。また、NMRスペクトルのケミカルシフトから芳香族性が低下しており、嵩高いアルキル基を導入したことによってHOMOのエネルギー準位が高くなる様子をUVスペクトルにより確認した。しかしながら、反応性の向上については、その評価方法を確立するには至っておらず、今後の課題となっている。
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今後の研究の推進方策 |
8位のアルキル基が嵩高くなるにつれ芳香族性を失い、反応性が高くなるという申請者らが提唱している作業仮説を確かめるために、反応性の評価系の構築を図る。実際の合成反応条件に近い濃度で測定するNMRスペクトルで追跡を試みる。反応性の評価系が確立できたならば、実際に基質間の反応性の違いを比較し、8位の置換基の嵩高さと反応性の相関について調べる。速度定数の比較による評価系の構築がが困難である場合は、2つの基質の競争反応を利用することにより、相対的な反応性の比較を行なう。 キノリン系で置換基間反発による活性化が可能であることを明らかにできれば、デアザ誘導体であるナフタレン誘導体や単環のピリジン誘導体に応用する。また、求核試薬に対する反応だけでなく、求電子試薬との反応やDiels-Alder反応なども検討し、本手法が汎用性の高い骨格修飾法であることを明らかにする。
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