研究課題/領域番号 |
20K05508
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研究機関 | 新潟大学 |
研究代表者 |
田山 英治 新潟大学, 自然科学系, 准教授 (90372474)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2024-03-31
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キーワード | キラルボレート / 第四級アンモニウム塩 / キラルアニオン / キラル識別 / 不斉認識 / 光学活性 |
研究実績の概要 |
研究代表者は、第四級アンモニウム塩の光学純度を決定する手法を2019年に発表している。第四級アンモニウム塩の陰イオンを光学活性陰イオンであるキラルボレートとイオン交換することでジアステレオマー混合物塩とし、そのプロトンNMR分析により第四級アンモニウム塩の光学純度が決定できる。この成果を基盤として本研究課題は建てられている。2020年度の実績を以下に示す。 (1)手法の適用範囲拡大:これまでの研究では、分子内に水酸基を持つ第四級アンモニウム塩を用いるとプロトンNMR分析においてケミカルシフトが激しく分裂し、光学純度の決定ができない結果が得られていた。これは、その際に用いていたキラルボレート骨格内にフッ素原子が含まれていたため、水酸基との間に望ましくない相互作用が発生したためと予想した。そこでフッ素原子を有していないキラルボレートを用いて実験を行ったところ、予想どおりそれぞれのジアステレオマー識別が可能となり、光学純度の決定ができることがわかった。 (2)臭素原子を有するキラルボレート合成と更なる応用:プロトンNMR分析における分離能の向上、ボレート塩の結晶性向上(X線結晶構造解析における重原子効果が狙い)、そして臭素原子がある位置への置換基導入を目的とし、主骨格内に臭素原子を有するキラルボレートの合成経路を確立することを試みた。計画通り、臭素原子を有するキラルボレートの合成に成功すると共に、臭素原子を利用して鈴木カップリングによるアリール置換基の導入と、リチオ化を経由してトリアルキルシリル基が導入されたキラルボレート前駆体の合成に成功した。得られた前駆体からキラルボレートの合成にも成功した。 (3)キラルボレートのリンカー部についての検討:末端アルキンのリチオ化を利用するキラルボレート合成において検討したところ、末端アルキンの構造でボレート形成の成否が左右されるという知見を得た。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
1年目としては概ね当初計画どおり研究が進んだものの、同時に現時点での未達成項目と、キラルボレート合成における限界点も明らかになり、今後の研究進展にはそれらの点を解決していく必要がある。 (1)キラル識別能と結晶性の向上:各種置換基を持つキラルボレートの合成に成功したものの、最終目的としているキラル識別能の向上(プロトンNMR測定におけるケミカルシフト分離幅の増大)と、生成する第四級アンモニウムボレート塩の結晶性向上について、本研究課題開始前に合成したキラルボレートと比較して変化は少なく、目立った成果は得られなかった。 (2)キラルボレートのリンカー部:当初計画では、芳香環と共役した末端アルキンを前駆体とし、塩基で処理することで発生するリチウムアセチリドと三塩化ホウ素との反応により、各種キラルボレートを合成することを予定していた。しかし、前述の共役アルキンから発生するリチウムアセチリドは電子的効果により求核性が低下し、四つの炭素置換基で構成されるボレート生成時に生じる立体障害を乗り越え難いことがわかった。その結果、得られるキラルボレートは低収率となり、合成可能なキラルボレート構造が大きく制限を受けることになった。キラルボレートのライブラリーを広げるためには、その構造デザインについて新たなアイデアを出す必要がある。 (3)不斉認識能を評価する高分解能NMR装置:キラルボレートのキラル識別能の評価にはNMR装置を用いているが、研究代表者の組織が所有する高分解能NMR装置(700MHz,共通機器)が、故障と修理予算不足のため長期使用不可となっている。現在稼働しているNMR装置(400MHz)のみでは、不斉認識能の評価をスムーズに行うことはできなかった。
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今後の研究の推進方策 |
2020年度の研究実績(2)と(3)から引き続き、以下の点について検討する。 (1)不斉識別能及び結晶性向上を目的とした置換基導入の検討:各種置換基を持つキラルボレートの合成に成功したものの、キラル識別能の向上は見られていない。目的実現のため、引き続き各種キラルボレートの合成実験を続ける。これまでキラルビナフチルを主骨格としてきたが、以下(2)の検討により、他のキラル部位を主骨格とするキラルボレートも合成する。合成可能なライブラリーを広げることで対応する。 (2)キラルボレートの主骨格についての検討:末端アルキンのリチオ化を利用するキラルボレート合成において、芳香環と共役する末端アルキンからのボレート合成は低収率となることが多く、このルートを利用した今後の研究進展は難しいと感じている。そこでリンカー部位を成功例が多いプロパルギルエーテルに戻し、そこから合成可能なキラルボレートのデザインと合成について検討する。例えばキラルアルコール、具体的には安価なメントールや、容易に合成できる8-アリールメントールを主骨格とし、その水酸基をプロパルギルエーテルに変換する。ここから末端アルキンのリチオ化を経由したキラルボレートの合成を行う。また、これまでプロパルギルエーテル部位をボレートホウ素原子とのリンカーに用いてきたが、その窒素版であるプロパルギルアミン、もしくはアミド部位をリンカーとする試みも開始する。
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