研究課題/領域番号 |
20K05513
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
永野 高志 高知大学, 教育研究部自然科学系理工学部門, 講師 (80500587)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ハロゲン / 酸化反応 / 酸化カップリング反応 |
研究実績の概要 |
本研究では,ハロゲンの酸化還元特性を活用する触媒的な酸化反応や酸化カップリング反応を開発することが目的である.また,酸化剤として酸素を使用する環境調和型触媒系を確立することも大きな目標である.酸素を使用することが出来れば,酸化反応によって生成する副生成物は原理的に水のみとなり,クリーンな変換反応となるためである.今年度の成果の概要は以下の通りである. (1)これまでの研究で得られた知見をもとに,アルデヒドとアルコールの触媒的酸化カップリング反応を検討した.1-ナフトアルデヒドをモデル基質として,t-ブチルヒドロペルオキシド(TBHP)を酸化剤として用い,触媒量のヨウ素と炭酸カリウムの存在下,60 ℃の反応温度で1-プロパノールとの酸化カップリング反応が効率的に進行することを見出した.メタノールを用いると,反応は室温でも効率的に進行し,対応するメチルエステルを得ることができた.種々の芳香族アルデヒドを用いて基質適用範囲を調べたところ,電子供与性基,電子求引性基を含む様々なアルデヒドから対応するエステルが90%前後の高収率で得られた. (2)アルデヒドの酸化的エステル化が効率的に進行することが明らかとなったため,ジオールからラクトンへの一段階変換も可能ではないかと考え検討を行った.(1)と同様の触媒系を用い,1,2-ベンゼンジメタノールをモデル基質として反応条件を検討したところ,TBHP4当量,反応温度50 ℃の条件において,目的物のフタリドを87%単離収率で得ることに成功した. (3)これまでの研究で,様々なδ-ケト酸をテトラブチルアンモニウムヨージド触媒存在下,酢酸中,酸素雰囲気下で加熱すると分子内脱水素カップリング反応が進行することを見出している.基質適用範囲の詳細を明らかにするため,新たに,脂肪族ケト酸や複素環部位を持つ基質を合成し,反応条件の検討を行っている.
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
新型コロナウイルスの感染拡大に伴い,昨年4月の研究開始直後から研究活動の自粛が求められ,研究協力者である学生達の登校禁止等もあり,出だしからつまずいた.当初の研究計画では,難易度の高いと思われる炭素―炭素結合形成型酸化カップリング反応の検討をメインに行う予定であったが,コロナ禍により制約が増えたため,細切れの時間でも実施しやすい研究を先に行うことにした.アルデヒドの酸化的エステル化や,ジオールからラクトンへの酸化的変換がヨウ素触媒を用いて上手く行えることが新たに解ったものの,炭素―炭素結合形成型酸化カップリングの開発が進んでいないため進捗状況は「やや遅れている」とした.
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今後の研究の推進方策 |
昨年度までに見出した知見を基に,今後は以下の点について重点的に検討を行っていく. (1)アルデヒドの酸化的エステル化がヨウ素触媒によって上手く進行することを見出したので,官能基耐性や基質適用範囲の詳細を明らかにするとともに,触媒量をどの程度まで下げることができるのか,酸素を酸化剤とすることができるのか検討する.また,酸化的アミド化へと展開できる可能性もあるので検討を始めたい. (2)ジオールからラクトンへの酸化的変換については,今のところ反応基質として1,2-ベンゼンジメタノールしか検討していないため,他のジオール基質についても検討を行う.特に,非対称なジオール基質を用いる際の位置選択性に興味が持たれる. (3)酸素を酸化剤とするδ-ケト酸の分子内脱水素カップリング反応について,基質適用範囲調査と再現性の確認が済み次第論文を投稿したい.分子内反応から分子間反応への展開も行っていく.分子間反応についてはすでに予備実験を進めており,様々なプロピオフェノン誘導体のα-アセトキシ化が70%前後の収率で行えることを見出しているが,再現性が悪いのが問題である. (4)令和2年度に行えなかった炭素―炭素結合形成型脱水素カップリングについて研究を開始し,各種データの収集を行う
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により研究が当初予定通りに進行していないため次年度使用が生じた.これらについては,研究の遅れを取り戻すために,次年度予算と合わせて消耗品購入やNMR測定費用等に充てる.
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