研究課題/領域番号 |
20K05515
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
坂口 和彦 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 准教授 (80264795)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | テトラヒドロピラノン / アレニルシラン / プリンス環化 / 不斉転写 / β-効果 / 立体選択性 / γ-ブチロラクトン / ケイ素 |
研究実績の概要 |
ケイ素をはじめとする14族元素の特性を利用した反応活性種の制御を鍵とする新奇な合成反応の開発を目的としている。 令和2年度は、β-シリル-γ-アルキリデン-γ-ブチロラクトン(以下、シリルラクトン)をルイス酸存在下でアルデヒドおよびケトンと反応させることによる多置換テトラヒドロピラノンの合成に成功し、新奇な分子変換手法を開発できた。ここでは、酸性条件下で生成するカチオン中間体のケイ素による安定化(β-効果)が反応を促進している。種々のアルデヒドおよびケトンを適用することで対応する多置換テトラヒドロピラノンが立体選択的に得られた。また、出発原料であるシリルラクトンの不斉が生成するテトラヒドロピラノン転写されることを確認した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
多置換テトラヒドロピラノンは生物活性天然物や医薬品においてしばしば見られる構成要素である。本年度は、シリルラクトンを用いたアルデヒドおよびケトンとのカップリングによる多置換テトラヒドロピラノンの合成に注力した。本反応の出発原料であるシリルラクトンは、既知のカルボキシメチル基が置換したアレニルシランに対し、一価の金触媒を用いたアレン中心での位置選択的な分子内環化によって合成した。シリルラクトンに対し、ワンポットでルイス酸存在下、2当量のアルデヒドを反応させると四置換テトラヒドロピラノンが立体選択的に得られることを見出した。本反応は1つ目のアルデヒドが細見-櫻井反応によりシリルラクトンに導入された後、連続して2つ目のアルデヒドを巻き込んだプリンス環化が進行してテトラヒドロピラノンを与えることを明らかにした。これにより、2種類の異なるアルデヒドの逐次的な導入に成功した。出発原料であるシリルラクトンの光学純度(>90% ee)が生成する四置換テトラヒドロピラノン(97% ee)に不斉転写されることも確認できた。ここでは、シリル基によるカチオン種の安定化(β-効果)と立体効果が反応の進行を促進すると共に立体選択性を制御している。また、アルデヒドに代えてケトンを用いると反応は全く起こらないが、アルデヒド(1当量)とケトン(1当量)を共存させた場合は五置換テトラヒドロピラノンが生成することが分かった。さらに、γ-ケトアルデヒドを用いることで、ビシクロ骨格を持つ縮環化合物の立体選択的合成にも成功した。 以上のように、シリルラクトンを活用した新たな分子変換手法を開発し、種々の多置換テトラヒドロピラノンの簡便かつ効率的な合成法を確立した(論文投稿準備中)。
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今後の研究の推進方策 |
アレニルシランを用いる合成反応の開発を目指す。アレニルシランは、求電子種存在下では求核種として作用し、一方で、AuやAgの遷移金属触媒で活性化されて求核種からの攻撃を受ける。いずれの場合もアレンの中央の炭素部位に位置選択的にカルボカチオン(β-シリルカチオン)が生成しやすいことが鍵となっており、これを利用した新規な分子変換法を開発する。また、アレニルシランの不斉を利用した不斉反応への展開にも興味が持たれる。なお、光学活性アレニルシランの合成法は確立できている。アレニルシランを合成反応に用いた例は限られており、その有用性の拡張に取り組む。
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次年度使用額が生じた理由 |
研究公表としての学会(日本化学会第101回春季年会)がオンライン開催となったことで、共同研究者(大学院および学部学生)を含む旅費の執行の必要が無くなり、当該年度の直接経費の一部を基金として次年度に繰り越した。繰り越し分は、合成反応に必要な比較的高価な金属触媒試薬等の購入に充当することを考えている。
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