金触媒は1価と3価ともに不飽和結合に高い親和性を有することが知られているが、3価の金触媒は酸素原子にも高い親和性を有することが報告されている。しかし金触媒の1価と3価の性質を戦略的に利用した反応の方向制御による環状化合物の合成例は数例のみであった。そのような背景下、我々は金触媒の価数による性質の違いを利用することで、プロパルギルアルコールから様々な環状化合物の合成に成功している。 令和2年度:1価金触媒存在下、γ位に水酸基を有するプロパルギルアルコールとレゾルシノールを作用させると、ビシクロ[3.3.1]ケタール骨格が高収率で得られることを見出した。本反応により、様々な置換様式のビシクロ[3.3.1]ケタール骨格を良好な収率で合成できたことから、ビシクロ[3.3.1]ケタール骨格構築法を確立することができた。また求核種としてナリンゲニンを用いて、γ位に水酸基を有するプロパルギルアルコールで反応を行ったところ、ナリンゲニンが導入されたビシクロ[3.3.1]ケタールが高収率で得られた。ナリンゲニンを用いる反応では、反応の位置選択性の問題が残されてはいるものの、生理活性天然物であるDiinsininolやObochalcolactoneの基本骨格を一挙に構築することが可能であることを見い出した。 令和3年度:ナリンゲニンを用いた反応において生じる位置選択性の問題を解決するため、反応位置がマスクされたナリンゲニンやクリシンの合成を行った。ナリンゲニンやクリシンの水酸基に保護基を有するものや芳香環部位にヨウ素を導入されたものを合成した。それらを用いて反応を検討した結果、反応の位置選択性の問題は解決できたが、収率が著しく低下した。 令和4年度:低収率の問題を解決するため、反応条件を種々検討することで、収率を中程度にまで上げることができた。
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