研究課題/領域番号 |
20K05521
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研究機関 | 国立研究開発法人理化学研究所 |
研究代表者 |
丹羽 節 国立研究開発法人理化学研究所, 生命機能科学研究センター, 副チームリーダー (30584396)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 鈴木宮浦クロスカップリング反応 / 亜鉛錯体 / 放射光XAS / 二核錯体 / ルイス酸 |
研究実績の概要 |
鈴木・宮浦クロスカップリング反応(SMC反応)は、信頼性の高い炭素-炭素結合形成手法である。ここでは、反応進行の鍵となる有機ホウ素化合物を用いた金属交換を起こすために、塩基性条件が必須であるとされる。しかし、有機ホウ素化合物は塩基性条件下で脱ホウ素プロトン化を併発するため、基質適用範囲に限りがあった。これに対し本研究では、非塩基性条件における有機ホウ素化合物の金属交換の一般性の解明と、有機合成化学への応用を目的に設定した。 申請者が予備的に見いだした、ルイス酸性金属錯体の添加によるSMCC反応を契機とし、本年度はその有機合成化学的有用性と反応機構の解明を目的とする検討を進めた。反応条件を精査したところ、ハロゲンと高い親和性を有する金属塩の添加が有効であった。中でも、N,N,N',N'-テトラメチルエチレンジアミンと亜鉛(II)トリフルオロメタンスルホン酸塩から簡便に調製可能な亜鉛錯体が最も有効であった。これを用いて最適化した反応条件下においては、脱ホウ素プロトン化しやすい有機ホウ素化合物を含め、様々な基質が適用可能であった。種々の生物活性化合物の合成のほか、研究代表者が以前開発したモノフルオロアルケン収束的合成用の2炭素ユニットの変換にも適用できた。反応機構の解明を目的に錯体反応を検討したところ、パラジウム錯体に有機ハロゲン化物が酸化的付加した錯体と亜鉛錯体を混合することで、熱的に安定でかつ有機ホウ素化合物との高い反応性を示す中間体が生じることがわかった。この中間体の単離が困難だったため、共同研究を通じ、放射光XASを用いた構造解析を行った。その結果、中間体はパラジウムと亜鉛からなる二核錯体であった。計算化学的検討からその熱的安定性の期限を考察することもできた。結果としてこの中間体は、金属交換に活性な高反応性化学種を平衡的に生じる前駆体として機能することが示唆された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
当初の研究計画の通り、2020年度内にルイス酸を用いる鈴木・宮浦クロスカップリング反応の最適化、基質適用範囲の検討、並びに反応機構解析を進めることができたことから、概ね順調に進行していると判断した。現在、用いるルイス酸の触媒化検討を進めているが、これは2021年度内の達成を目指す内容である。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度以降は、これまでに得られた非塩基性条件における反応機構に関する知見をさらに深めるとともに、これを活かした新たな化学変換の開発を遂行する。具体的には、鈴木・宮浦クロスカップリング反応の配位子効果をより詳細に検討すべく、放射光XAS解析と計算化学を組み合わせた検証を継続する。さらに、反応場を有機溶媒から変更することで、ルイス酸すらも用いない手法の開発を目指した検討を進めめる。これに加え、クロスカップリング以外の形式の反応を模索する予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
コロナ禍により3ヶ月程度実験実施不可な状況に置かれ、全体的に執行額が低くなった。これに加え、必要な物品のほとんどが、すでに研究室で所有している試薬類で充足していたため、新たな試薬の購入が最低限で済んだこと、さらに学会の殆どがオンライン化されたことから旅費をほぼ使用しなかったことから、次年度使用額の増加につながった。次年度使用額については、2020年度に研究が順調に推移したことを受け、反応中間体のさらに精緻な解析に活用したい。
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