研究課題/領域番号 |
20K05523
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研究機関 | 山形大学 |
研究代表者 |
石崎 学 山形大学, 理学部, 講師 (60610334)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 多孔性配位高分子 / 界面フリー / イオン伝導 / 電子伝導 |
研究実績の概要 |
2021年度は、プルシアンブルー(PB)及びその類似体(PBA)の構造組成に合成条件が与える影響について研究を進めた。また、その塗布膜を作製し、構造が与える電気化学的イオン吸脱着特性を評価した。電解液中だけでなく、無溶媒中での電子およびイオン伝導度測定を進め、電子とイオンの協奏的反応の研究を進めた。 Ni系PBAでは、フェロシアン酸カリウム過剰条件でカリウム内包Ni系PBAが合成できた。Zn系PBAはフェロシアン酸過剰条件では結晶性が低下し、ナノ粒子化した。合成したZn系PBAをKCl水溶液中でサイクリックボルタンメトリー測定したところ、サイクルの増加に伴い電流値が低下し、結晶が溶出した。Zn系PBAはイオン挿入に対して、構造が不安定あると示唆される。2020年に合成した完全結晶型CuPBAナノシートの電気化学測定を進めた。一般的なPBではKの脱挿入がスムーズに起こるのに対して、CuPBAナノシートではNaの脱挿入がスムーズに起こった。 クエン酸添加条件、フェロシアン酸イオン/フェリシアン酸イオンの自己分解反応を利用した完全結晶PBの合成を進めた。生成速度を制御することで、粒子は1μmほどまで結晶が成長した。結晶水は少なくなり、完全結晶型のPBの合成に成功した。 機能性薄膜の交流インピーダンス測定測定に向けて、CNTを用いて電極作製法を開発した。金などの一般的な金属電極の場合、水蒸気透過性が低く、外部刺激による応答が困難となる。CNT電極は多孔性であり、物質拡散を阻害しない。溶液塗布法により作製したPB薄膜の、交流インピーダンス測定より、ペレット法等では観測できない、非常に伝導の遅い成分を観測した。導入イオンを変えることで応答周波数・伝導度が変化する一方で、湿度にもわずかに応答した。このことからPB膜内の水和したイオンの伝導と示唆される。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
金属種や混合条件を変えることで、得られたPBAの金属比や構造、粒子径が変化した。欠陥構造の増加は、内部結晶水の増加と相関があり、構造と機能の相関を評価する際に重要である。一部のPBAは、水系電解液中で電気化学測定中に分解・溶出し、安定な構造を形成できなかった。CuPBAナノシートは、ヤーンテーラー効果によりシート状結晶の短軸方向に伸長した単位ユニットを持つ薄膜材料であった。PBは、水系電解質中ではイオン半径の小さなカリウムがカウンターカチオンとして取り込まれやすい。一方、CuPBAナノシートは、Naが取り込まれやすい。これは単位ユニットの伸長によって、より水和イオンの大きなNaの脱挿入に適した構造に変化したことを示唆する。また、Mgイオン水溶液中の測定を行ったが応答はわずかであった。これは水和半径の大きなMgは粒子表面の活性種のみ応答するためと考えられる。 PBナノ粒子水分散液を調製し、櫛形電極上に塗布し、そのイオン伝導度を測定した。自己組織化単分子膜を用いた単粒子膜では、加熱による界面融着によって、Grain boundary free機能が発現した。一方塗布膜では、粒子が重なった構造であったことから、加熱処理はなくとも、高周波数帯にプロトン伝導が発現した。多孔性CNT電極を用いてPBナノ薄膜の厚み方向(300nm)のイオン伝導度を測定した。一般的なイオン伝導よりも、極端に電極間距離が小さく、見かけ上抵抗値を下げることが可能である。これによって、イオン種にも湿度にも応答する未知の伝導種の観察に測定した。水和したイオンの伝導と考えている。プロトンやベアのイオンよりも大きなイオンであるため、欠陥構造を介した伝導と考えられる。
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今後の研究の推進方策 |
2021年度合成したPBおよびPBAで構造分析のみ行い、機能評価を十分に進めていないものがある。2022年度は、それら材料の分散化・塗布膜作製・加熱によるGrain-boundary free膜の作製を進める。分散化の際には、対カチオンが異なるフェロシアン酸イオンを用いることで、PB及びPBA内に含まれるイオン種を制御する。作製したPB/PBA膜の電気化学評価の際には、水系電解液及び非水系電解液中で測定を行い、PBの内部環境と外部環境(電解液)の影響についてもの明らかにしていく。特にMgやZnなどの2価イオンの脱挿入挙動について研究を進めていく。PB及びPBA合成時に過剰のカチオン存在下で合成を進め、イオン内包PB/PBAの合成を行う。 積層膜についての評価を進める。合成した各種PBおよびPBA分散液を多段階的に塗布・焼成することでGrain-boundary free積層膜の作製を行う。積層膜を種々の電解液中で電気化学測定を行い、イオン取り込み挙動を明らかにする。また、乾式系で交流インピーダンス測定を行い、イオン伝導度特性を明らかにする。合成したPBおよびPBAのペレット膜を作製し、薄膜との特性の違いの有無について評価を進める。 また、CNT電極を用いたPBナノ薄膜の交流インピーダンス測定より、これまで観測できなかった非常に遅い伝導種を観測した。この伝導種の同定には至っていない。今後、導入イオン種の変更、測定環境の制御によって、伝導イオン種の同定を進める。合成した各種PBAの分散化・塗布薄膜作製を行い、交流インピーダンス測定からイオン伝導能に与える構造の影響について明らかにしていく。
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