研究実績の概要 |
本年度は実施計画書に従い、以下の2点について成果を上げた:(1)対面にイソブチル基とSi-H部位を有する新規ヤヌスキューブの合成、(2)反応性置換基を導入したバタフライケイジの合成。以下その内容を示す。 (1)対面にイソブチル基とSi-H部位を有する新規ヤヌスキューブの合成 研究計画書ではフェニル基とSi-H部位を有するヤヌスキューブの合成を提案したが、出発原料の合成の際の収率がやや低いこと、最終ステップのかご形成反応における化合物の分離が困難であったことを受け、置換基を溶解性の高いイソブチル基とし、合成を検討した。その結果、目的とするヤヌスキューブの合成に成功し、論文発表を行った(Y. Egawa, C. Kobuna, N. Takeda, M. Unno, Synthesis of Janus cube containing Si-H moieties, Mendeleev Commun., 32, 35-36 (2022))。興味深いことに、通常のT8かご型シルセスキオキサンは多くが高い融点を示し、300℃以上となることが多いのに対し、本ヤヌスキューブの融点は80℃で、非対称な骨格が物性にも大きな影響を与えていることがわかる。このことは溶媒を用いず加熱により液化して材料の原料や添加剤として用いえる可能性を示唆しており、応用が期待される。 (2)反応性置換基を導入したバタフライケイジの合成 剛直な胴体部分(Tユニット)と柔軟な羽部分(Dユニット)の双方を有するバタフライケイジはTユニットにフェニル基、Dユニットにメチル基を有するものを報告しているが、今回はDユニットにメチル基とビニル基を有する化合物の合成を行った。異なった置換基を有することから、異性体が多数存在するが、今回は混合物から一つの単結晶を得ることに成功し、X線構造解析を行った。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
本研究の実施計画においては、2020年から21年度については、ヤヌスキューブとバタフライケイジに反応性置換基を導入することを提案しており、いずれも達成することができた。さらに、これ以外のシルセスキオキサン骨格(ラダーシロキサン、ダブルデッカーシロキサン)などについても並行して合成を行っており、その検討の過程で、ほぼすべての化合物において、精製の段階でカラムクロマトグラフィーやHPLCを必要とせず、反応を処理をして溶媒を除去し、適当な有機溶媒で洗浄するだけで十分な純度を有する化合物を単離することができている。これは、合成法を検討し高収率で目的物を与える方法を見出したことに加え、精製条件の最適化を繰り返したことで実現した。これにより、得られた目的物を工業的に利用する(ハイブリッド材料の骨格、有機材料の機能向上のための添加)ことにおいて、大量合成が可能で、有機溶媒の利用料も削減できるという大きな利点を示すことができた。 また、合成した化合物の応用として、反応性置換基を有するダブルデッカーとラダーシロキサンを有機発光性モノマーと交互重合させることで得られるポリマーが、大きな発光の長波長シフトを示すことも共同研究で明らかとなった。このことは、これまで絶縁体として応用されてきたシロキサンが、電子の非局在化を可能にすることを示しており、電子材料や発光材料への応用が期待できる。本結果は昨年度のAngew. Chem. に掲載された(M. Unno et al., Conjugated Copolymers That Shouldn’t Be, Angew. Chem. Int. Ed. 60, 11115-11119 (2021))。 以上のように、当初の計画以上に進展している。
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