研究課題
当該年度は、引き続き材料としての応用を指向し、実用化に向けた取り組みを行った。基本骨格として、かご型シルセスキオキサン(T8)、ラダーシロキサン、ダブルデッカーシロキサン(DDSQ)に、反応性置換基として、ビニル基やアリル基などを導入し、さらに官能基変換で、チオール(SH)、アジド基(N3)、シリル基(SiR3)の導入化合物を合成した。昨年度に引き続き、一群の反応性モノマーの応用として、共同研究を行っている企業(本年度は5社)を通じ、様々な材料への展開を検討し、実用化に結びつける試みが進行している。いずれの化合物も、シロキサン骨格のハイブリッド性を反映し、合成後は濃縮、溶媒洗浄のみで、純粋な目的物を得ることが可能で、実用化においても大変有望である。また、特異な物性を示す化合物として、イオウ原子を含む大環状はしご型シロキサン(ラダーシロキサン)の合成も行った。この化合物は大きなシロキサン+イオウの環を分子内に有することから、ホスト分子としても有望であるが、特に最近の電子材料用途で強く求められている低誘電率材料(分子内に空孔を有すると絶縁性が向上する)、高屈折率材料(ディスプレイのコーティングなど、空孔やフェニル基、イオウ原子を有することで高くなる)として有望であると考え、共同研究先において合成した5種類の新規化合物について、屈折率の測定、応用の可能性を図っていただいている。また、これまでは耐熱性の高いシルセスキオキサンを骨格とするモノマーの合成に注力していたが、これらの化合物の合成において、新しいシランカップリング剤としてハイブリッド材料のよい原料となる可能性が示され、合わせてその検討も行った。
1: 当初の計画以上に進展している
当初の計画においては、かご型シルセスキオキサン、ダブルデッカーシロキサン、ラダーシロキサン(各環が6員環または8員環)のものを骨格とする研究提案を行っていたが、原料の大量合成が可能となり、さらに新しい骨格を見出すことができた。さらに、計画にないイオウ原子を導入することもでき、最終目的である電子材料としての実用化に新たな一歩を踏み出すことができた。これ以外の骨格についても、様々な置換基を有するものを10gスケールで合成することに成功し、国内の各企業から要請を受け、資料提供を行っている。以上の当初の予定にない新しい研究の発展を実現できたため、当初の計画以上に進展していると判断した。
研究の進捗に伴う共同研究を通じて、現在5Gの電子材料開発が活発化し、既存の材料を適用するだけでは望まれる物性を達成できない問題点の解決が強く求められるようになっていることが明らかになった。本研究においてもこのような流れに寄与できるよう、これまでに行ってこなかった材料の合成も検討を始めている。今後は、高伸長性、高熱伝導性など、具体的な数値目標を達成するため、本研究で扱ってきたシルセスキオキサンを含むシリコーン材料の検討も行っていく。これまでは市販の化合物を用い、配合比やフィラーの種類を変えることで物性の達成を行っており、本研究で合成した新しい骨格を用いることでさらなる高機能化を図ることが可能となるため、積極的に本研究で合成した化合物を最大限に活用した材料の設計・合成を行っていく。
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すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (5件) (うち国際共著 5件、 査読あり 5件、 オープンアクセス 1件) 学会発表 (5件) (うち国際学会 5件、 招待講演 3件)
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