研究課題/領域番号 |
20K05526
|
研究機関 | 富山大学 |
研究代表者 |
岩村 宗高 富山大学, 学術研究部理学系, 講師 (60372942)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | 円偏光発光 / 超高速時間分解分光 / 発光分光 / ヤーン・テラー変形 / 光学選択的消光反応 / ユウロピウム |
研究実績の概要 |
近年、円偏光発光分光(CPL分光)を用いた研究が多数報告されるようになり、関連する研究の裾野が急劇に広がっている。とくに、電子遷移にともなう軌道角運動量の変化量が大きい遷移金属錯体は、CPL分光の観測対象として有効で、大きな円偏光異方性を示す遷移金属錯体が数多く知られるようになった。しかしながら、現在広く用いられている定常状態のCPL分光から得られる情報は、円偏光異方性因子など、円二色性(CD)分光法からも得られる情報を凌駕しない。CD分光法にはないCPLのもつ利点は、励起状態におけるキラリティを観測出来る点である。光誘起により生成する励起分子を対象とする場合、超短光パルスレーザーを用いた時間分解分光法で緩和過程の実時間観測が可能であることを考え合わせると、励起分子を観測対象とするCPL分光は、励起状態での構造や電子状態の変化、不斉反応のダイナミクスなどを対象とした励起状態の時間分解観測に用いられることで、真価を発揮できる。ここから得られる情報は、分子認識、不斉発生、分子構造変化など,基礎科学に重要な知見を与えると期待される。本研究では、円偏光分解能に加えてナノ秒とフェムト秒の時間分解能を有する時間分解CPL分光システムを構築する。励起状態でヤーン・テラー変形を示す銅錯体を円偏光励起したとき、変形をおこす前の縮重状態に軌道角運動量が保存されている状態がどのていど維持されているのかという興味に基づき、初年度は、フェムト秒時間分解発光分光装置を用いて円偏光発光分光計測を試みた。しかしながら、蛍光成分に含まれる円偏光強度が弱く、有意な信号の検出はできなかった。 一方、次年度において、マイクロ秒領域での時間分解円偏光発光分光をユウロピウム錯体とコバルト錯体が共存している水溶液で行うと、有意な円偏光信号を得る事ができた。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
ジカルボン酸フェナントロリン2分子が配位したユウロピウム錯体1を光学分割したコバルト錯体と共存させた水溶液で、円偏光発光が観測された。発光はユウロピウムのff遷移に帰属され、円偏光異方性は共存するコバルト錯体のキラリティに依存した。三価コバルトのフェナントロリン錯体、ビピリジン錯体、エチレンジアミン錯体を用いて円偏光発光スペクトルを調べた結果、エチレンジアミン錯体を共存させたときのみ円偏光が観測された。発光の時間変化をマイクロ秒領域で観測したところ、水溶液中に共存するコバルト錯体がラセミ体のときと光学分割したもののときで、異なる時間変化が計測された。これは、光学選択的消光反応が起こっていることを示している。円偏光発光異方性の時間変化をナノ秒時間領域で計測できる光学系を作成した。 円偏光発光を示すユウロピウム錯体1がどのような構造をしているか調べるために、溶液にアミノ酸を共存させ、CDスペクトルを計測したところ、フェナントロリンの吸収帯に強いCD信号が観測された。このCD信号を解析し、CPLを発しているときの錯体1の構造を決定した。
|
今後の研究の推進方策 |
作成したナノーマイクロ秒時間分解円偏光発光分光装置を用いて、ジカルボン酸フェナントロリン2分子が配位したユウロピウム錯体1のコバルト錯体による光学選択的消光反応に伴う円偏光発光の時間変化を計測する。 時間分解円偏光発光変化に加えて、定常状態の円偏光発光スペクトル、発光寿命および発光スペクトルの変化を様々な濃度のコバルト錯体の存在下で計測し、光学選択的消光速度を決定する。得られたデータを解析し、光学選択的消光反応のメカニズムを明らかにする。 時間分解円偏光発光データから、励起状態の光学選択的反応を評価する方法論を確立する。
|
次年度使用額が生じた理由 |
予定していた国際学会がオンライン学会となったので、旅費がかからなかった。2022年度に開催される国際学会の参加費用にあてる。
|