研究実績の概要 |
光合成システム(PSII)における太陽光を用いる水分解反応は、Mn錯体と高度にカップリングしており、それを触媒するのが「CaMn4O5クラスター」である。これは強相関電子系に属しており、その電子物性・機能発現・反応性の解析には高精度量子化学計算が必須である。しかし、分子軌道法での高精度計算の王道と言われるCC法やMR-CI法は、その適用範囲が比較的少数原子系に限定されており、この巨大分子系に適用することは、計算機資源や計算時間などの制約から極めて困難である。その理由で、電子相関を交換相関汎関数に繰り込んだDFT法、特にHybrid-DFT法が、現在までに数多く行なわれた。しかし、手法内パラメータを順次変更すると、中間体の相対安定性が大幅に変動するため、水分解反応機構の解明には予見性を備えたアプローチが必須であり、その限界をこの研究を遂行することで突破する。
太陽光を利用する水分解反応を触媒するCaMn4O4XYZWクラスターの分子構造は、実験により解明されており、ここでのX, Y, Z, Wはクラスターに配位している水(H2O)あるいはその酸化誘導体(OH-, O2-)などである。しかし、実験では水素原子の位置は見えないので酸素原子の位置にH2O, OH-, O2-のいずれの配位子が存在するかは実験的には確定していない。従って、理論計算ではX,Y,Z,Wの位置にH2O, OH-, O2-のいずれかを仮定してUB3LYP法による構造最適化を行い、得られた構造で高精度計算を実行することで、詳細な物性データを得る。本年度では、特にKokサイクル(S0, S1, S2, S3, S4)のスタートであるS1状態(暗所で最安定)の前後の、S0とS2状態に関して解析を行った。高精度計算には、近年の発展が著しいLPNO-CC法を実行した。これは、参照軌道として最適なUB3LYP分子軌道から局在軌道対軌道解析を行うことで情報の縮約化を行い、高精度計算CC法に導入する手法である。その結果は、論文誌に執筆した。
|