近年、光化学的CO2還元触媒反応に注目が集まっているが、そのほとんどは有機溶媒中で行われており、水中での反応は研究例が極めて少ない。この原因として、CO2還元と水素発生が競合すること、触媒への電子移動効率の低下などが指摘されている。本研究では、水中における触媒反応を妨げる原因となっている光増感分子から触媒分子への電荷分離効率を上げるため、ミセル界面を反応場とした光化学的CO2還元触媒反応について検討した。特に、触媒分子としてビピリジン型非天然アミノ酸を導入したペプチド鎖が配位したルテニウム錯体を用いることにより、触媒分子への様々な修飾が容易に行えるよう分子設計を行った。まず、ミセルへ取り込ませるためにペプチド配位子のN末端側に長鎖アシル基を導入した。また、第二配位圏にヒスチジンなど水素結合性側鎖をもつアミノ酸を導入した。これらの合成はFmoc固相法により行っている。 光化学的CO2還元触媒反応は、得られたルテニウム錯体触媒を取り込んだCO2飽和ミセル水溶液に、ルテニウムトリス(ビピリジン)錯体を光増感剤、アスコルビン酸を電子源とし、可視光照射により行った。触媒反応生成物は主に一酸化炭素とギ酸であり、水素発生も同時に観測された。これらの生成物の気体成分はガスクロマトグラフ、ギ酸はキャピラリー電気泳動で分析した。触媒分子の構造(アシル鎖長・構成アミノ酸の違い)に加えて、ミセルの種類(カチオン性・中性・アニオン性)、溶液のpHなど反応条件の違いによる影響を検討した。傾向としては鎖長の長いアシル基の導入が必要であり、中性ミセル中での触媒活性が最も高効率であった。また、pHは観測可能な範囲内では高いほうが良い傾向がみられた。これらの結果を基に、さらに構造の異なる触媒分子の開発を行う必要があると考えられる。
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