本研究課題では,以下に示す2つの点について成果が得られた。 (1)マンガン-サレン錯体を用いたアンモニア分解反応の反応機構に関して:マンガン-サレン錯体とアンモニアから生成されるアンモニア錯体は,脱プロトン化が先に進行するよりも酸化が先に進行し,それらが段階的に起こることで,アミド錯体を経由してイミド錯体に至ることがわかった。イミド錯体にアンモニアが攻撃すると,3重項状態のコンプレックスに至る。この後,エネルギーの低い5重項状態に移り,アンモニア由来のプロトンがイミド錯体由来の窒素に移動すると,ヒドラジン錯体が生成するのに対して,5重項状態のコンプレックスから脱プロトン化・酸化が繰り返されると,窒素錯体が生成されることがわかった。以上,イミド錯体にアンモニアが求核攻撃する反応経路は妥当であることが明らかになった。 (2)ルテニウム触媒の置換基効果:ルテニウム錯体を触媒として用いた反応系のさらなる高活性化に向けて,反応機構に関する詳細な知見を得ることを目的とし,DFT計算による検討をおこなった。一価カチオンのルテニウム-アンモニア錯体から一価カチオンのニトリド錯体に至る経路について検討をおこなったところ,アキシャル位がイソキノリンであっても,以前検討をおこなったピリジンの場合と同様,適切な電位を与えることで脱プロトン化・酸化を3回繰り返し,アミド錯体,イミド錯体を経由してニトリド錯体に至ることがわかった。次にニトリド錯体2分子からなるカップリング過程に関して検討をおこない,6位にPh基を導入したイソキノリンをアキシャル位に配位させたニトリド錯体の場合,コンプレックス,遷移状態ともに相対エネルギーが低くなり,活性化エネルギーは低下することがわかった。6位のPh基同士がπ-π相互作用した構造を有していることから,分子間相互作用が反応性の向上に寄与していることが示唆された。
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