研究実績の概要 |
本研究の目的はCo(III)錯体の酸化還元電位の精密制御および低酸素部位蓄積性官能基の導入による低酸素腫瘍細胞高選択性次世代Co(III)錯体プロドラッグの開発である。特に昨年度は、酸化還元電位の精密制御されたCo(III)錯体の合成の確立に着手した。 まず、種々の酸化還元電位を持つCo(III)錯体の合成とキャラクタリゼーション並びに酸化還元電位の測定を行った。具体的には、[Co(Me2bpy)2(CO3)]Cl, [Co(tBu2bpy)2(CO)3]Cl (Me2bpy = 4,4’-dimethyl-2,2’-bypyridine, tBu2bpy = 4,4’-ditertbuthyl-2,2’-bipyridine)錯体の合成、並びに既存の論文に基づいて[Co(TPA)(CO3)](PF6), [Co(TPA)Cl2](ClO4), [Co(TPA)(NO2)2](ClO4) (TPA = Tris(2-pyridylmethyl)amine)の合成を行った。TPA錯体では酸化還元電位は精密に制御できたものの、いずれの錯体も細胞毒性は示さなかった。以上のことから、ビピリジン並びにフェナントロリン錯体が低酸素腫瘍細胞に対して有効的であることが判明した。ビピリジンCo錯体では予想通りアルキル基の電子供与性に影響し、[Co(bpy)2(CO3)]Cl > [Co(Me2bpy)2(CO3)]Cl > [Co(tBu2bpy)2(CO)3]Clの順に還元されやすいことを確認した。本年度は、これらのビピリジルCo(III)錯体についてHeLa細胞を用いて細胞アッセイを行う予定である。さらに、高い抗がん活性を持つポリピリジンCo(III)錯体は還元剤であるアスコルビン酸に対して高い反応性を持つのに対して、TPA錯体はほとんどアスコルビン酸との反応性を示さなかった。この結果は、レドックス制御のみならず、アスコルビン酸との反応性が抗がん活性に関与されることが判明した。 本年度では、このポリピリジンCo(III)錯体にクマリン部位を導入したCo(III)錯体並びに低酸素部位蓄積性官能基である2-ニトロイミダゾールを持つCo(III)錯体の合成を予定している。
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