研究課題/領域番号 |
20K05535
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研究機関 | 東北大学 |
研究代表者 |
星野 哲久 東北大学, 多元物質科学研究所, 助教 (30551973)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 錯体化学 / 分子科学 / 材料化学 / 熱伝導 / 熱流束制御 / 構造相転移 / スピンクロスオーバー |
研究実績の概要 |
本研究課題では分子性結晶の次元性や構造相転移などが熱伝導度に与える影響を明らかにするとともに、熱・光照射・ガス吸蔵などによる可逆な結晶欠陥の導入と熱流束制御を行うことである。今年度は前年度までの研究で得られた結果をもとに、分子運動や相転移による熱伝導度の制御に関して以下の研究を行った。 ①低い熱伝導度が求められる熱電素子の新しい開発アプローチとして、一次元分子性Q(TCNQ)2中にアルキルアンモニウム等の固体内分子運動を起こしやすいカウンターイオンを導入することで、熱伝導度の低減と熱電変換効率の向上を試みた。結果として熱伝導度を大幅に低減することに成功したが、同時に電気伝導度の低下のため熱電変換効率の改善には至らなかった。本成果はCryst.Growth&Des.誌にアクセプトされ現在掲載待ちである。 ②スピンクロスオーバー(SCO)錯体の結晶について熱伝導度測定を行い、その転移挙動と熱伝導度の変化について検討を起こった。SCO錯体は配位結合距離とその振動エネルギー変化を介して、金属イオンの電子状態と結晶のフォノン状態が強く相互作用した系として知られている。本研究では鉄3価salEen系SCO錯体について熱伝導測定を行い、そのスピン転移温度と熱伝導度の温度変化が大きく相関していることを明らかにした。本研究成果は日本化学会年会にて口頭発表を行ったほか、現在論文投稿中である。 ③1次元錯体中の分子運動に関連して、球状構造をもつアダマンチル基を配位子にもつルテニウム2核錯体がその分子運動の励起に伴い、結晶溶媒の部分的脱離に伴ってイオン伝導性を発現することを、単結晶構造解析および複素インピーダンス測定の解析によって明らかにした。本研究成果はCryst.Growth&Des.誌に掲載された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
計画通り、種々の相転移を伴う各種分子結晶の熱伝導測定を行い、物質探索を進めることができた。またスピンクロスオーバー錯体のスピン状態と熱伝導度に大きな相関があることは研究計画段階から予期していたが、今年度の検討によって実験的に初めて明らかにすることに成功したため、電子状態制御による熱流制御の実現に見通しを立てることができた。 また前年度導入したソースメーターにより導電性や熱起電力の評価が可能となったため、格子熱伝導度と電子熱伝導度の分離が可能となった。そこで無機熱電素子で注目されている「ラットリング」の有機結晶への導入を新たに着想し、研究成果を修めることができた。
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今後の研究の推進方策 |
申請者は4月より新潟大学に異動するため、装置等の移設と研究環境の整備を速やかに行う。光ファイバ導入のために装置改良を既に終えているため、特にスピンクロスオーバー錯体や光互変位性分子などを用いて、光励起による熱流制御について研究を行う。また今年度は成果が得られなかった、強誘電体への電流印加による熱流制御や、結晶の接合による熱流束の整流などについても引き続き検討を行う。また最終年度であるため、これまでの研究で得られた計測のノウハウや物質設計の指針等を纏めて、積極的に学会や学会誌等への発表を行う。
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