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2020 年度 実施状況報告書

カチオン部位を有する配位子を用いた希土類単分子磁石の創出と磁気異方性の精密解析

研究課題

研究課題/領域番号 20K05540
研究機関奈良女子大学

研究代表者

梶原 孝志  奈良女子大学, 自然科学系, 教授 (80272003)

研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワード希土類錯体 / 磁気特性 / 遅い磁化緩和 / 分子構造 / 磁気異方性
研究実績の概要

本課題では希土類錯体を対象に、分子設計に基づく遅い磁化緩和の制御を目標としている。二価のアニオン性配位子 ピリジンジカルボン酸 L2- を用いて形成される三回対称性の希土類錯体[Ln(L)3]3- を起点とし、ピリジン部分をピラジンに置き換えたピラジンジカルボン酸配位子系の錯体、ピラジンにアルキル基を導入することにより部分的にカチオン的な性質を持つ配位子系の錯体の合成を目指している。本年度はピラジンジカルボン酸配位子の合成とその希土類錯体の合成、磁気特性の測定を行った。希土類として軽希土類のセリウム錯体から重希土類のジスプロシウム錯体まで網羅的な錯体合成を行い、磁気特性について様々な知見を得た。
1.軽希土類の錯体において遅い磁化緩和を観測した錯体が多いが、電子構造が重希土類に比べて単純なため、三回対称性の結晶場と異方性が合致し、容易軸型の異方性が発現したためだと結論した。一方、重希土類、特にジスプロシウム錯体においては対称性が向上するのに従って遅い磁化緩和が観測されなくなったが、これは、複雑な電子構造を持つ重希土類において、三回対称性を持つ結晶場の効果により状態が混成し、容易軸型異方性が弱まったためであると考えた。
2.ピリジンジカルボン酸配位子系の錯体に比べてピラジンジカルボン酸配位子系錯体における磁気特性の向上を期待したが、実際には逆の結果が得られた。これは、ピリジンからピラジンへ塩基性の低下に伴って配位性が低下し、錯体の構造に比較的大きな変化が生じたこと、対称性の低下に伴って磁気異方性も低下したものとして説明される。
3.異方性を持たないとされるガドリニウム錯体において、遅い磁化緩和が観測された。
4.ab initio計算を実行できる環境を導入し、動的な磁気特性に対して理論的な考察が可能となった。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

本課題では「新たな錯体系の合成」と、「磁気特性を測定する方法論の開発・発展」の2点を両輪として展開している。
錯体系の合成については、ピラジンジカルボン酸配位子系錯体の合成を行い、軽希土類から重希土類まで5~7種類の希土類イオンに対し、合計20種類ほどの錯体の合成と構造解析、磁気特性の測定を行うことができた。ピラジンジカルボン酸の合成法も確立できたので、次年度以降アルキル基の導入を試み、研究課題名にあるカチオン部分を有する配位子系の合成へと研究を展開する予定である。
磁気異方性の精密解析について、単結晶を用いた磁気異方性の定量化を試みた。三回対称性を持つ2種類の錯体を対象に単結晶を育成し、長辺が4~5mmの大きさを持つ単結晶試料の作成に成功した。この大きさの単結晶試料であれば直流磁化率のみならず、交流磁化率の測定も十分に可能である。一部については共同研究者のPiotr Konieczny博士(ポーランド)の協力のもと、遅い磁化緩和の結晶の方位に対する依存性を観測することに成功した。このような事象はこれまでほとんど報告がなく、希土類錯体における遅い磁化緩和現象の詳細な機構解明に向け、重要な知見となることが期待される。
ab initio計算を実行する環境を導入し、磁気特性と電子構造との相関を検討することも可能となった。これにより、遅い磁化緩和がどのような要因により阻害されたり加速されたりするのか、電子構造の違いをもとに定量的な理解が可能となった。

今後の研究の推進方策

初年度の成果をもとに、以下の課題を遂行する予定である。
1.カチオン部位を有する配位子系の合成:ピラジンジカルボン酸配位子の合成経路が確立できたので、中央のピラジン部位にアルキル基を導入し、カチオン部位を有する配位子へと誘導する。反応性の高いカルボキシル基の保護、ハロゲン化アルキルの反応と精製、脱保護、錯体の合成と結晶化、結晶構造解析による同定を試みる。
2.ガドリニウム錯体における遅い磁化緩和の機構解明:初年度の研究において、三回対称性を有するガドリニウム錯体が30Kまで遅い磁化緩和を示すことが見いだされた。本来磁気異方性を示さないとされるガドリニウム錯体にこれほど高温まで遅い磁化緩和が観測されるのは異常な現象である。単結晶試料を用いた直流磁化率、交流磁化率の測定、EPRスペクトルの測定、比熱の温度依存性の足などを行い、磁気異方性の精密解析を試みる。また、ab initio計算により得られた結果と照らし合わせ、電子構造と動的な磁気特性との相関について検討を行う。

次年度使用額が生じた理由

初年度は新型コロナウィルスの蔓延防止対策のため海外渡航ができず、国際学会などへの参加旅費の支出が0円となった。また、年度前半の登校自粛に伴い実験時間が大幅に短くなり、それに伴う消耗品支出も当初予定よりも少なくなった。しかし、初年度に様々な実験結果が得られており、次年度以降は合成を中心に研究を展開するため、繰り越した助成金は薬品など消耗品費として使用する予定である。

  • 研究成果

    (2件)

すべて 2020 その他

すべて 国際共同研究 (1件) 雑誌論文 (1件) (うち国際共著 1件、 査読あり 1件、 オープンアクセス 1件)

  • [国際共同研究] Institute of Nuclear Physics(ポーランド)

    • 国名
      ポーランド
    • 外国機関名
      Institute of Nuclear Physics
  • [雑誌論文] Anisotropy of Spin-Lattice Relaxations in Mononuclear Tb3+ Single- Molecule Magnets2020

    • 著者名/発表者名
      Piotr Konieczny,* Robert Pelka, Yuka Masuda, Shiomi Sakata, Saori Kayahara, Natsumi Irie, Takashi Kajiwara, and Stanislaw Baran
    • 雑誌名

      J. Phys. Chem. C

      巻: 124 ページ: 7930-7937

    • DOI

      10.1021/acs.jpcc.9b11057

    • 査読あり / オープンアクセス / 国際共著

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公開日: 2021-12-27  

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