研究課題/領域番号 |
20K05541
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研究機関 | 高知大学 |
研究代表者 |
松本 健司 高知大学, 教育研究部総合科学系複合領域科学部門, 講師 (30398713)
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研究分担者 |
上野 大勢 高知大学, 教育研究部総合科学系生命環境医学部門, 准教授 (90581299)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | シデロフォア / アルカリ土壌 / 鉄輸送 / 植物栄養代謝 / 還元 |
研究実績の概要 |
世界の陸地の3割にも及ぶ石灰質アルカリ土壌は、植物における鉄吸収および光合成を阻害するため作物の育成に不適合であり、急進する食糧需要を満たすためにはこうした土壌の有効利用が求められている。本研究ではアルカリ条件下でも安定なFe(III)錯体を形成する微生物型シデロフォアの特性・構造に着目し、アルカリ土壌でも利用可能な植物用鉄供給剤としての微生物型人工シデロフォアの合成とその機能評価を目的とする。 令和2年度においては、末端カルボキシル基を有するビス(ヒドロキサム)酸型人工シデロフォアを新規に合成するとともに、ヒドロキシピリジン骨格を有するdesferrithiocin類縁体を合成し、1H NMRおよびESI-massスペクトルで生成を確認した。これらを用いて、Fe(III)錯体を合成し、UV-visスペクトル測定により、各種pHにおけるFe(III)錯体の錯形成挙動を調べたところ、これらのFe(III)錯体はpH8~9の弱塩基性域でも安定なFe(III)錯体を形成することが明らかとなった。また、新規に導入した電気化学アナライザーを用いて、これらの人工シデロフォア-Fe(III)錯体の還元電位を計測したところ、一般的な植物用鉄供給剤であるEDTA-Fe(III)と比較して、より還元されやすい性質があることが明らかとなった。 また、鉄欠乏状態のキュウリの若苗を用いて、先に合成したフェノール骨格を有するdesferrithiocin類縁体のFe(III)錯体による鉄欠乏回復効果を水耕栽培により調べたところ、pH7~9の領域においてベンチマークとした一般的な植物用鉄供給剤のひとつであるEDDHA-Fe(III)と同等かより高い効果が見られた。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
令和2年度においては、新型コロナの影響により、大学への入構禁止や授業等の特別な対応のため、十分な研究時間が取れなかったものの、当初予定していた2種類の微生物型人工シデロフォアおよびそのFe(III)錯体の合成に成功した。残念ながらこれらのFe(III)錯体を用いた植物の鉄欠乏回復効果の評価までには至らなかったが、UV-visスペクトルや酸化還元電位測定結果からは従来の人工シデロフォア-Fe(III)錯体と比較して、塩基性条件下における錯体安定性や被還元性が高い傾向が見られたことから、目標とする「アルカリ土壌でも利用可能な植物用鉄供給剤」としての性質を有していることが示唆された。 また、過去に合成した人工シデロフォア-Fe(III)錯体については、pH7~9における水耕栽培での植物における鉄欠乏回復効果実験の結果から、ベンチマークとした一般的な植物用鉄供給剤のひとつであるEDDHA-Fe(III)と同等かより高い効果が見られた。以上の結果から、本研究は今のところ、概ね順調に進展していると考えている。
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今後の研究の推進方策 |
令和2年度に合成した人工シデロフォア-Fe(III)錯体に対する植物の鉄欠乏回復効果を評価する。評価の方法としては、まずは鉄欠乏回復効果を確認しやすいミニトマトを用いて、弱酸性条件(pH6程度)の水耕栽培により行う。その後、塩基性条件で育成可能なキュウリを用いて、pH7~9の水耕栽培により評価する。これらの評価と並行して、人工シデロフォアの改良を試みる。特に、これまでの研究結果より、desferrithiocin類縁体の鉄欠乏回復効果が高く、特に配位子骨格にヒドロキシピリジン部位を有する方が良いことから、ピリジン窒素の位置による影響やピリジン環への置換基の導入を試みる予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
令和2年度は新型コロナの影響により、大学への入構制限や授業等の特別な対応のため、当初予定した研究時間を取ることができなかったことが最大の理由である。さらに、学会等もオンラインで開催となり、当初予定していた旅費の支出が不要になったことや、測定装置の利用料金の負担が少なかったことも理由として挙げられる。 令和3年度においては、当初の計画に加え、昨年度に実施できなかった内容を実施するとともに、これまでの研究結果を論文として取りまとめ、英文校閲・投稿などを行う予定である。
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