研究課題/領域番号 |
20K05542
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研究機関 | 長崎大学 |
研究代表者 |
馬越 啓介 長崎大学, 工学研究科, 教授 (20213481)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 混合金属錯体 / 光学活性 / 光学分割 / 光物性 / 白金錯体 |
研究実績の概要 |
3次元光学ディスプレイや円偏光発光(CPL)レーザー,キラル認識などへの応用の可能性から,光学活性な金属錯体の光物性に興味が持たれている。光学活性な金属錯体は,光学活性な配位子を用いて錯形成する方法と,金属原子の立体配置を利用する方法の2通りの方法で構築することができる。光学活性な配位子を用いることなく,金属中心周りの配位子のキレートの仕方により不斉を発現させている金属錯体は,"Chiral-at-metal complex"と呼ばれている。これまで多くの光学活性な八面体型錯体が合成されてきたが,光学活性な多核金属錯体の光学分割と光物性に踏み込んだ研究は行われていなかった。 本年度は,フェニル基を有するN-ヘテロ環状カルベンがC^Cキレート配位子として作用した白金錯体ユニットが,Ag3クラスターをサンドイッチした多核金属錯体を合成した。このPt2Ag3錯体の構造的特徴は,イプソ炭素原子を含む2つのアキラルなC^Cキレート配位子が,Pt→Ag供与結合を形成しやすいように互い違いに配置するため,錯陽イオン(Pt2Ag3ユニット)には反転中心も鏡映面も存在しないことである。つまり,Pt2Ag3錯体は実はキラリティーを有し,ラセミ体として存在していることを意味している。+1価の11族元素は,d10の電子配置をとり置換活性であるため,Ptと11族金属イオンからなる混合金属錯体で光学分割が試みられた例は報告されていない。しかし,意外なことに,Pt→Ag供与結合の生成によるPt2Ag3錯体の安定化が功を奏し,Pt2Ag3錯体のラセミ体にキラルな対アニオンを加えてジアステレオマーを形成させることで,Pt2Ag3錯体の光学分割に成功した。これにより "Chiral-at-Cluster" というキラル錯体の新たなカテゴリーを創出し,Pt2Ag3錯体からのCPLの観測に成功した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
フェニル-NHCがキレート配位した白金錯体ユニットがAg3クラスターをサンドイッチした多核金属錯体は,溶液中でも立体構造を安定に保つことが分かった。この特長を利用して,Pt2Ag3錯体のラセミ体にキラルな対アニオンを加えてジアステレオマーを形成させることで,Pt2Ag3錯体の光学分割に成功し,各鏡像異性体からの円偏光発光の観測にも成功した。この研究成果をAngewandte Chemie International Edition誌に投稿したところ,非常に高い評価を受け,Hot paperに選出された。
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今後の研究の推進方策 |
Pt2Ag3錯体の光学分割に成功したのは,フェニル-NHCがC^Cキレート配位子として作用した白金錯体ユニットがAg3クラスターをサンドイッチした錯体1例だけである。フェニルピリジンやrollover型ビピリジンがシクロメタル化し,C^Nキレート配位子として作用した白金錯体ユニットを用いた場合も,光学分割できるほどPt2Ag3錯体の立体構造が安定かどうか明らかにする必要がある。また,"Chiral-at-Cluster"の範疇に含まれる様々な多核錯体を合成し,それらの光学分割と光物性測定を試みる。
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次年度使用額が生じた理由 |
当初の計画より研究が進んでおり,令和3年度以降に試薬類購入のための物品費が不足する見込みである。そのため,令和2年度に購入した備品の一部を他の研究費から支出し,次年度に繰り越した。 コロナウイルス感染拡大に伴い,学会がオンライン開催となったため,旅費は支出しなかった。また,論文のカラー印刷費が次年度の請求になったため,その他の経費も繰越した。これらの予算は,次年度以降に使用する予定である。
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