研究課題/領域番号 |
20K05543
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研究機関 | 大阪市立大学 |
研究代表者 |
中島 洋 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (00283151)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | フェリチン / プリシアンブルー / 近赤外光応答 / 振動励起エネルギー / ニトロプルシド |
研究実績の概要 |
計画書に記載したドーパミン類の複合体への包摂については、化合物の取り込みと同時に内部のプルシアンブルー(PB)による酸化が明らかとなり、更なる実験をすすめることができなかった。一方、鉄ニトロシル錯体の一種であるニトロプルシド(Na2[Fe(CN)5(NO)], NP)については、PB@Fr一分子あたり、約30分子を包摂した複合体(NP-PB@Fr)の調製方法を確立し、PBS緩衝液中、37℃の生体を模した条件下で安定に存在することを確認した。また、PB@Fr中のNPは、シアニド配位子を介してPBの空配位座に固定されていることを示す結果を得た。具体的には、1) NPは、PBとの複合化前のフェリチン自体には取り込まれない。2) PB@Frを予めシアニドイオンで処理し、PB上の空配位座を予め占有すると、PB@FrへのNPの包摂が抑制されることが挙げられる。NP-PB@Frは、PBによる原子価間電荷移動吸収(IVCT, λmax = 700 nm)を示す。このIVCTに対応する光をNP-PB@Frに照射したところ、一酸化窒素(NO)の放出を確認した。NPのみに対する同様の光照射では、NO放出がみられないことから、NP-PB@Frが示した光応答性は、IVCT吸収による光熱変換でフェリチンのナノ空間に発生する熱がNPの熱分解を促進した結果と考えられる。別途調査したNP-PB@Frの光熱変換効率は、λ = 700 nmの光照射に対し、約40%であり、報告されているコロイド状PBと同程度であった。この値は、金ナノロッドなどの高効率光熱変換物質(> 90%)に比較すると見劣りするが、可水溶性物質としてきわめて高く、PB@Frが近赤外光を熱源とする生体適合性ナノリアクターに利用できる可能性を示す結果といえる。以上の結果は、現在学術論文への投稿準備中である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
21年度は、共同研究者のCOVID-19感染対策のため、研究を一時期中断する必要に迫られたが、研究計画の大部分を実施することができた。研究実績でも述べたように、PB@Fr内へのカテコールアミン(ドーパミン類)の包摂については、否定的な結果が得られたため、研究を切上げ、定量的に再現性の高いニトロプルシド包摂体(NP-PB@Fr)の調製法の確立、並びに物性の評価に集中した。得られた結果は、NP-PB@Frが生体を模した溶液中において安定で、かつ近赤外光応答性の一酸化窒素放出物質であることを示し、研究申請書に記載した予想される成果の一つを実現できたことなる。 NP-PB@Frより一酸化窒素放出が実現できたことで、近赤外光を熱源ナノリアクターとしてPB@Frを利用する道筋が見えてきた。現在、申請書に記載の計画からの派生研究として、PB@Frを触媒とするいくつかの反応を近赤外光照射によってさらに加速することが可能否かを調査中である。また、20年度の研究推進方策に記載した近赤外光照射によってプルシアンブルーから生成する熱によるPB@Frの構造制御についても引き続き、研究を進めている。 以上のように、21年度は、コアマテリアルとして完成したPB@Frの応用開発を中心に研究を進め、研究申請書に記載した期待される成果も挙げつつある。このため、22年度も申請書に記載の研究計画に沿った研究の実施・遂行を目指す。
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今後の研究の推進方策 |
当初の研究計画がおおむね順調であるため、申請書に記載の計画に沿った研究を22年度も引き続き実施する。ただし助成期間の最終年度であることを考慮し、これまで合成法の確立と物性評価を終えたニトロプルシド包摂型プルシアンブル―フェリチン複合体(NP-PB@Fr)に研究対象を絞り、1) 一酸化窒素放出機構の詳細な解明、2) より生体を模した環境(具体的には、NP-PB@Frを静脈注射した場合を想定)における一酸化窒素放出挙動の調査、3) 解明機構を基盤とする他の分子への熱反応の応用」を中心に進める。以上の研究により、PB@Frを「近赤外光を熱源とするナノリアクター」として提案し、生体を対象とする機能性分子輸送材料への展開研究につなげる。また、計画研究からの派生ではあるが、将来的な研究展開を見据えて、近赤外光の化学をキーワードとする「近赤外光照射によってプルシアンブルーから生成する熱によるPB@Frの構造制御」、「鉄錯体を利用した近赤外光応答性一酸化炭素放出物質の開発(Tanaka, S. et al. , J. Organometallic. Chem. 2021, DOI: 10.1016/j.jorganchem.2021.121843)」についても引き続き研究を進める予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
COVID-19感染拡大の影響により、2021年度に参加した学会がすべてオンライン開催となり、使用予定であった旅費が0であったことが主たる原因である。22年度は、参加予定の学会を一件増やし、学会における研究成果の発信に努める。また学術論文の投稿前英文校閲料へ充当する予定である。
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