研究課題/領域番号 |
20K05544
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研究機関 | 成蹊大学 |
研究代表者 |
坪村 太郎 成蹊大学, 理工学部, 教授 (70188621)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 円偏光発光 / 円偏光二色性 / 銅錯体 / 金属錯体 |
研究実績の概要 |
2020年度に引き続き、キラルな銅錯体の新規合成とCPL/CD両用分光計の開発のテーマで研究を行った。 ジイミン配位子とジホスフィン配位子を含む銅(I)錯体は紫外線照射下でしばしば強い発光を示すことが知られている。そこでキラルな発光性銅錯体について、2020年度はキラルなジホスフィン配位子と、アキラルなジイミン配位子の組み合わせで実験を行い、ジイミン配位子がアキラルであってもジホスフィン配位子の影響でねじれることで、キラリティーが誘起され、CPLが観測されることを示したが、2021年度はキラルなジイミン配位子を合成し、それを用いて銅(I)錯体を合成することを行った。キラルなジイミン配位子としてビピリジンの2つのピリジン間をエーテル結合を含む飽和炭化水素鎖でつないだ配位子を新規合成し、それを用いて銅錯体を合成したところ、期待通り、比較的強いCPL信号を与える銅(I)錯体を得ることができた。 二座カルベン配位子を含む銅錯体の発光に関しては、キラルな錯体を得るには至っていないが、末端の置換基にエチル基を有する銅(I)二核錯体について、きわめて興味深いメカのクロミズム現象を発見した。得られた錯体を一旦130℃に加熱した後、すりつぶすことで発光が緑色から若干薄い色に変化するが、さらにその後180℃に加熱すると全く発光しなくなる。しかしそのサンプルを再度すりつぶすことで強い黄色発光が見られることが分かった。 また、CD/CPL両用分光計の開発に関しては、CPL測定用の高輝度UVLED光源と、CD測定用の150Wキセノンランプ光源をワンタッチで切り替え可能なシステムを構築した。後者を用いるCD測定に関しては、まだバックグラウンドのCD信号が比較的大きく観測され、さらなる改良が必要であることがわかった。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
3: やや遅れている
理由
2021年度はカルベン配位子を有する銅(I)錯体のキラリティーの研究も行う予定であったが、予想外のメカノクロミズム現象を見いだし、その研究と報告に時間をとられたことと、ジイミンとジホスフィン配位子を有する銅錯体の研究に焦点を絞っていたため、キラルカルベン錯体の研究には着手できなかった。ただ、キラルなジイミン配位子を含む錯体については、良好な特性を与える配位子を見いだすことができ、最後の一年でこの研究を進めたい。また、コロナの影響も残っていることもあり、CD/CPL両用分光システムの構築についても装置自体はほぼ完成したが、バックグラウンド信号の低減が行い切れていないため、やや遅れているという区分とした。
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今後の研究の推進方策 |
CD/CPL両用分光システムについては、光軸の調整をさらに進め、必要に応じてデポーラライザを使用することも含めて、バックグラウンドシグナルの低減を図る。また、キラルなコバルト錯体や、ユウロピウム錯体で光学活性データが知られているものを標準物質として用いて校正を行い、信頼性のある値が得られるシステムの完成を図る。 また、銅(I)錯体のCPLの研究に関しては、2021年度に行ったキラルなジイミンを用いる研究をさらに進め、構造と観測されるCDやCPLの大きさとの相関を調べるとともに、二核カルベン錯体の溶液中のコンホメーション変化を調べて光学分割の可能性を探り、溶液中でキラル構造を保っていることが分かれば、光学分割を試みて、最終的にはCPLスペクトルを得ることを目指す。また、時間依存密度汎関数計算も併用して光学活性の要因を探る予定である。
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次年度使用額が生じた理由 |
2020年度はコロナ感染症の影響が大きく、55万円ほど繰り越した。2021年度は当初の申請予算を若干超えて支出を行ったが、2020年度の繰越額の半額ほど繰り越すこととなった。最終年度はこの繰り越し分は、当初の計画の物品費に加えて使用する予定である。その結果次年度は試薬、光学部品、ガラス器具などの物品費として約77万円、旅費と人件費は当初の予定通りそれぞれ10万円使用する計画である。
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