研究実績の概要 |
本年度は、キラル銅(I)錯体の円偏光発光についてのテーマに関して多くの知見をまとめて得ることができた。まず著名なキラルジホスフィンであるbinap配位子と配位原子としてイオウを含む陰イオン配位子であるdppaS2(ビス(ジフェニルホスフィノ)アミド)ジスルフィド)配位子を含む銅(I)錯体の分光特性の評価と合わせて、イオウ以外のカルコゲニドを含む同様な配位子を含む銅(I)錯体の分光特性を調べる研究を行った。その結果カルコゲニドの種類によって銅錯体の発光強度は大きく異なるものの、不斉因子はほぼ一定であるという興味深い結果を得た。 また、ビピリジン誘導体とキラルジホスフィン配位子の組み合わせで一連のキラル銅(I)錯体を合成した場合、ビピリジン配位子の3,3'位の置換基が大きくなるにつれてビピリジン配位子のねじれが大きくなることが予想される。実際バルキネスの異なる置換基を持つ3種類のビピリジンを用いた錯体を合成して、ねじれが大きいと不斉因子が0.01に近い強い円偏光発光を示すことが発見された。これらの銅錯体の発光は銅原子からビピリジン配位子へのMLCT励起状態からのものと帰属される。不斉ジホスフィンの立体効果により、ジイミン配位子が一方向にねじれ、それによって円偏光発光が観測されるということをはっきりと示すことができた。 加えて、以前発見した、キラルなジケトンを含む白金(II)錯体と、キラルなジホスフィンを含むパラジウム(0)錯体がいずれも比較的強い円偏光発光を示すことに関して、再現性や、その電子状態計算を含めて補足の研究を行いまとめることができた。 以上の結果を合わせて錯体の円偏光発光に関して2022年度は4本の論文として発表することができた。
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