研究課題
本研究は、不活性な窒素分子の高効率な活性化を目的として、架橋二窒素配位子をもつ高原子価二核窒素錯体に対し、アルカリ金属イオンを付加させた異種多核窒素錯体の合成と、それを用いた電気化学的窒素固定法の実現を目的としたものである。本研究では、これまでに窒素錯体の中心金属イオンとして報告例の少ないバナジウムイオンおよびクロムイオンを選択した。また、配位子には当研究室で開発した末端に嵩高い置換基を有するトリアミドアミン配位子を用いた。そして、バナジウムイオンおよびクロムイオンと配位子との反応から、高原子価窒素錯体を複数合成し、それら全ての構造を決定した。さらに、合成した高原子価窒素錯体とアルカリ金属とを反応させることによって、アルカリ金属イオンが付加した異種多核窒素錯体の合成に成功するとともに、合成した全てのアルカリ金属イオンが付加した窒素錯体の結晶構造を決定した。また、合成したアルカリ金属イオンを含まない高原子価窒素錯体、アルカリ金属イオンが付加した異種多核窒素錯体を、電子源である還元剤存在下、酸と反応させることによって、アンモニアおよびヒドラジンが生成することを各種スペクトル測定から明らかにした。ただし、これらのプロトン化反応においてはアンモニアやヒドラジンを触媒的に生成させることはできなかった。このアンモニアおよびヒドラジンの生成については架橋二窒素配位子由来であることをラベリングした二窒素配位子を用いることによって明らかにした。さらに、窒素錯体に付加したアルカリ金属イオンの種類と反応性に関して、ナトリウムイオンが付加した錯体よりもカリウムイオンが付加した錯体の方が二窒素配位子が活性化されており、プロトン化反応においてもアンモニアやヒドラジンの収率が向上していることを明らかにした。
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Inorganic Chemistry
巻: 62 ページ: 5320-5333
10.1021/acs.inorgchem.2c01561