研究課題/領域番号 |
20K05548
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研究機関 | 宇都宮大学 |
研究代表者 |
上原 伸夫 宇都宮大学, 工学部, 教授 (50203469)
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研究分担者 |
稲川 有徳 宇都宮大学, 工学部, 助教 (30828489)
伊藤 智志 宇都宮大学, 工学部, 助教 (60361359)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | ゆらぎ / 熱応答性 / 蛍光性ポリマー |
研究実績の概要 |
我々が見出した蛍光ゆらぎを発現する発蛍光型熱応答性高分子(ポリ(N-イソプロピルアクリルアミド-co-N-[4-(ペンテノキシ)フェニル]-1-ナフチルアミン))の類縁体を各種合成した。これらの高分子の示すゆらぎと高分子構造との関連について検討した。それと同時に,ゆらぎを定量的に評価するパラメーターについて検討した。 その結果,発蛍光型熱応答性高分子の構造とゆらぎの発現との関連に関して,以下の4点が明らかになった。1)高分子の熱応答性は必須ではない。2)主鎖となるビニルモノマーののうち,エステル部位あるいはカルボキシ基を有するビニルモノマーから合成した水溶性ポリマーではゆらぎが見られず,アミド部位を持つビニルモノマーから合成した水溶性ポリマーではゆらぎが発現する。3)主鎖となるビニルモノマーののうち,メタクリル部位を有するビニルモノマーから合成した水溶性ポリマーではゆらぎが見られず,アクリル部位を持つビニルモノマーから合成した水溶性ポリマーではゆらぎが発現する。4)アルキル基を有するN-フェニル-1-ナフチルアミン単体でも蛍光ゆらぎが生じる。とくに,4)の蛍光団モノマーそのものが蛍光ゆらぎを発現することは,ゆらぎの発現の本質に迫る発見であり,高分子構造そのものはゆらぎの発現には直接関与していないことを示している。 蛍光ゆらぎの解析に関して,主に,振幅と周期とを考慮したパラメーターを導入した。振幅については,シグナル強度の変動を標準偏差および相対標準偏差で見積もることができることを明らかにした。また,周期については,シグナル強度の時間的な変動から自己相関関数を求め,これをフーリエ変換することにより,パワースペクトル(各周波数における強度の周波数依存性)を得た。さらに粒子の拡散モデルを仮定して,パワースペクトルをローレンツ型関数にフィッティングした。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
1: 当初の計画以上に進展している
理由
1)ゆらぎの解析について: 共同研究者の稲川有徳助教が精力的にゆらぎの解析方法を確立したことにより,得られた測定データを定量的に解析できるようになった。この解析方法の確立には当初1年半を予定していた。当初予定より半年以上早く進展した。 2)ゆらぎの発現と高分子との相関について 高分子の熱応答性がゆらぎの発現に必須でないこと,さらに,蛍光団モノマー(N-[4-(ペンテノキシ)フェニル]-1-ナフチルアミン)だけでも,蛍光ゆらぎを発現することが明らかにできた。これらの結果は当初想定されていなかった。これにより,蛍光団モノマーの構造そのものにゆらぎ発現の原因があることが明らかになった。したがって,当初考えていた水溶性高分子という枠組みにとらわれることなく,研究を展開できるようになった。
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今後の研究の推進方策 |
1)パルス状ゆらぎの発現機能の解明とその解析:これまでの知見から,連続的なゆらぎではなく,パルス状にゆらぎが発現する現象を見出した。そこで,新たな展開として,このようなパルス状にゆらぎがどのように生じるのかについて検討する。 2)高分子の構造とゆらぎの発現との関連のさらなる展開:本項目については研究の途上にある。そこで引き続き,検討する。とくに,主鎖のビニル基おけるメチル基の有無によるゆらぎの発現の有無は,ゆらぎ現象の核心に迫るものである。動的光散乱法などを駆使して,メチル基の効果を検証する。 3)蛍光団ビニルモノマーの構造とゆらぎの発現との関連のさらなる展開:これにより,ゆらぎを発現させるポリマーの基本構造を明らかにする。得られた知見をベースに,タンパク質,糖,核酸などの生体高分子に蛍光団を導入した新たなバイオプローブ分子を創製する研究に展開する。これを次の科研費の研究テーマとし,前倒し申請を行う。
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