研究課題/領域番号 |
20K05550
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研究機関 | 京都工芸繊維大学 |
研究代表者 |
池上 亨 京都工芸繊維大学, 分子化学系, 准教授 (20301252)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | クロマトグラフィー / 重合修飾 / 立体選択性 / 糖の識別 / 親水性 / イオン交換 |
研究実績の概要 |
シリカの表面修飾に用いる重合反応と分離性能の関係の精査、最適化 シリカゲルの重合修飾に関して、アクリルアミドの重合を基礎的な検討のプローブとして用いた。表面開始型原子移動ラジカル重合(SI-ATRP)を用いると、非常に親水性の高い分離媒体が得られた。これはアセトニトリル:水=60:40中においても6糖や7糖では十分な保持を与える点で、当初の目的(生体由来の高親水性の化合物、中でも糖鎖のより高い保持を目指した、イオン交換相互作用に依存しない高親水性の固定相の開発)をほぼ実現できた。ここで重合修飾されたポリマーの分子量は、1万から2万と決して大きくないが、フリーラジカル重合法(FRP)で修飾した場合に比べて10から200倍の密度で高分子鎖が形成できており、全体として結合できる高分子の量が飛躍的に高まった。 導入する高分子鎖の鎖長、鎖の密度と分離性能の相関の検討 ポリアクリルアミドの分子量および高分子鎖長の均一性および高分子鎖の密度と分離性能の関係の解明を行なったところ、SI-ATRPで修飾した場合は、分析温度の違(5から60C°)に対して、より相比が安定しており、高温でも保持が激減するということはなかった。糖類の保持や相比に対して測定温度の影響を解析したところ、SI-ATRPで修飾した媒体では非直線的な相関が得られた。van’t Hoffプロットによる解析では、SI-ATRPでもFRPでもエントロピー項には大きな差が見られず、エンタルピー項で大きな違いが見られた。これはポリマー鎖の表面と糖鎖の相互作用がSI-ATRPでより強いことを示している。この解析結果は、SI-ATRPにおける高い構造選択性(直鎖のオリゴ糖と環状のシクロデキストリンの選択性)と直結していることが示された。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
(1)シリカの表面修飾に用いる重合反応条件とカラム性能の関係の精査、最適化 研究実績の概要に述べたとおり、いくつかの固定相で高い親水性を示すものが得られており、順調に知見を増やすことができている。 (2)導入する高分子鎖の鎖長、鎖の密度と分離性能の相関の検討 研究実績の概要に述べたとおり、高分子鎖の鎖長、鎖の密度と分離性能の相関を個別に解析、定量化する方法が確立されたので、順調に進んでいると判断できる。 (3)親水性相互作用型、イオン交換型で理論段数10万段を発生 長いシリカモノリスカラムの修飾について、産業界からいくつかの要請を受けた。今後実施する予定である。SI-ATRPは酸素を嫌う反応であるため、キャピラリーカラム内でも無酸素状態を保つ方法を開発する必要がある。 (4)高速条件下で利用価値の高い低分子型の分子識別部位の開発 低分子型でも十分な保持と選択性を与える固定相を発見したが、シリカ担体を別のものに変えると効果が低くなった。より多種類のシリカ担体を検討対象にして、何が分離特性を左右するのかを明らかにしなければならない。 (5)糖ペプチド、糖タンパクの分離への応用 現在LC-MSに接続が難しい環境にあるため、生体中のペプチド、タンパク質に含まれる糖鎖の標準品を入手して、保持時間から同定を進める必要がある。糖鎖の標準品は非常に高価なので、一度に揃えることは難しいことが研究を推進してゆく上では困難の原因になっている。
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今後の研究の推進方策 |
(1)シリカの表面修飾に用いる重合反応条件とカラム性能の関係の精査、最適化 (2)導入する高分子鎖の鎖長、鎖の密度と分離性能の相関の検討 目的(1)(2)については、従来使われていなかった官能基を含むモノマーを重合修飾することにより、アミド基やカルボン酸以外の官能基を含むポリマーに関しても従来見られた傾向が維持されるのか、あるいは別の挙動が見られるのか確認する。 (3)親水性相互作用型、イオン交換型で理論段数10万段を発生 イオン交換型については、さまざまな官能基を含むモノマーを検討し、知見を増やしてゆく。キャピラリーカラムにも適用できるSI-ATRPを開発するため、無酸素状態を保つ方法を探索するとともに、有酸素下でも進行するSI-ATRPを見出す必要がある。 (4)高速条件下で利用価値の高い低分子型の分子識別部位の開発 (5)糖ペプチド、糖タンパクの分離への応用 (4)(5)については進捗状況の報告にも書いたとおりである。糖ペプチド、糖タンパクについては、比較的安価な糖タンパクを消化してサンプルを得る方法を試してみる。
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