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2021 年度 実施状況報告書

水圏環境認識を深化させる溶存態リン化学種のスペシエーション法の高機能化と応用

研究課題

研究課題/領域番号 20K05553
研究機関大阪教育大学

研究代表者

横井 邦彦  大阪教育大学, 教育学部, 名誉教授 (30144554)

研究分担者 久保埜 公二  大阪教育大学, 教育学部, 教授 (00269531)
研究期間 (年度) 2020-04-01 – 2023-03-31
キーワードリン / 光分解 / スペシエーション / 低圧水銀ランプ
研究実績の概要

リンの溶存状態にはオルトリン酸(以下[P]),有機態リン化合物(以下[OP]),ポリリン化合物(以下[PP])があるが,本研究代表者等は,185nmの紫外線を照射することにより[OP]のみを分解後定量することで,[OP]と[PP]の各々の濃度を知ること、すなわちスペシエーションを可能としてきた。紫外領域に大きな吸収を示す天然水試料では,分解効率が著しく低下してしまうが、令和2年度に改良した装置で安息香酸を標準試料として従来法より短時間での光分解を可能とした。その一方で、低圧水銀ランプのロットが異なれば分解効率が異なることが見いだされたが、令和3年度には[OP]としての2-アミノエチルホスホン酸やフィチン酸を標準試料として、紫外部吸収の大きな試料についても過塩素酸や過酸化水素を共存させることで95%以上の分解効率を30分程度の光照射で達成できた(横井担当)。この手法により、大阪近郊河川水につき、575.3 ppb(P)の全リン中に[P]、[OP]及び[PP]が544.7、24.3および6.3 ppb(P)存在していることを見出した(久保埜担当)。リンの循環では微生物の分解によるリンの放出が重要な要素であるが、河川水試料を未ろ過のまま室温で一定期間保存した後ろ過・定量すると、[OP]が減少する一方で[PP]が増加する傾向が見られた(横井)。これは微生物体内の高度に重合した[PP]が環境へ放出されている可能性を示している。その一方で大阪北部の池から採水した試料では、同程度の期間保存しても[PP]の増加は見られず[OP]が減少し[P]の増加が見られた。微生物分解の機構が異なっていることも一因かと思われるが、これは本研究でのスペシエーションが実施できて初めて得られた結果であり、世界的に見ても議論されたことがない。海洋科学へ大きく貢献できる結果が得られたと考えている。

現在までの達成度 (区分)
現在までの達成度 (区分)

2: おおむね順調に進展している

理由

当初の令和3年度計画では「分解効率を増大させるために,従来の石英製試験管中で試料溶液を撹拌下で光照射すること,試料水を薄膜状にすること,ランプ周囲に配置する螺旋状石英管中に試料を通過させられるような工夫を試みる(横井)。令和2年度と同様な計測を観測定点の試料で行い(久保埜)」などとしていたが、従来法では紫外線吸収の大きい試料に対して2時間程度の光照射が必要であったため、それを改善するために令和2年度に光分解効率を上昇させる工夫を前倒しで実施し、光照射用ランプボックスの容積縮小と反射率の向上、それに伴うランプが高温となることについて気化熱を利用して防ぐことなどが効果的であることが判明した。それを受けて令和3年度では改良された装置を用いて、紫外線を吸収する程度の大きい試料でも、2-アミノエチルホスホン酸やフィチン酸を標準試料として30分程度の光照射で良好に分解することができた(横井)。また、大阪近郊の河川水についてリンのスペシエーションを短時間で行うことが可能となり、従来から測定している観測定点での結果も簡便に得ることができた(久保埜)。さらには室温保存していた河川水試料などのリンのスペシエーションを実施することにより、環境水中でのリンの循環を考える上で従来は全く得られていなかった有機態リンとポリリンの濃度変化を観測することができた。令和2年度と3年度の予定を概ね順序を入れ替えて実施したこととなったが、結果的に実施予定の計画を大幅に進めることができたため、全体的な進捗状況としては「おおむね順調に進展している」と判断した。

今後の研究の推進方策

令和4年度以降には河川水や海水を採取し、改良された光分解装置を用いてリン化学種のスペシエーションを行いたい。「進捗状況」のところでも述べたが、採水後未ろ過のまま室温保存した試料につき、一定期間経過後にろ過したのちスペシエーションを実施することで、微生物の活動状況に応じて変化する溶存態の有機態リンとポリリンの濃度を正確に測定することができるようになってきた。この計測をさらに進めたいと考えている。世界的に見ても、特に貧栄養海域では、ポリリンが植物プランクトンによる一次生産量を大きく左右する側面が近年注目を集めており、粒子態中のポリリンを抽出後に蛍光強度を測定することでポリリン濃度を決定する手法がさかんに用いられてきている。そもそも一次生産量が増加するために粒子態中のポリリンが利用されるにあたっては、いったんポリリンが溶存態となって水中に溶けだす必要がある。そのため、リンの循環を本質的に研究するには溶存態としてのポリリン濃度を正確に求める必要がある。生体内にはATPやADPといった3リン酸や2リン酸を含む物質が存在し、これらが水中に溶けだす可能性も考えられるためポリリンにはATPやADPも含めて濃度測定することが必要である。ところがポリリン定量のための蛍光法ではリン酸の重合度が15程度を越える場合にのみ測定が可能であり、ATPやADPといった短鎖長のポリリンを測定できない。その一方で、本研究における手法では短鎖長から長鎖長のポリリンまで包括的に測定することができる。このことを可能とするのは世界的に見ても本研究における手法をおいて他にはない。令和3年度までは河川水と池水の一部についてのみ測定できたが、令和4年度には海水を含む試料についても実施し、できれば季節変動についても考察できる程度のデータの蓄積を試みたい。

次年度使用額が生じた理由

令和3年度に実施した研究の中で改良された装置を用いて、紫外線を吸収する程度の大きい試料でも、2-アミノエチルホスホン酸やフィチン酸を標準試料として30分程度の光照射で良好に分解することができた。その一方でリンのスペシエーションを多数の実試料について実施することが後回しとなった。一部実施したスペシエーションにおいては、有機態リンとポリリンの濃度が変化することが見いだされたため、このことを詳細に検討するために採水は一度に多量の試料をとることとし、それを長期間にわたって測定することが必要である。室温保存試料の測定が主となれば、特定の地点で多量の採水を行うこととなるが、多数の地点で採水を行うことに比べて消耗品類の使用が軽減された。また、比較的高額である低圧水銀ランプの消耗も顕著ではなかったため、令和3年度では購入しなかった。これらの理由のため若干の次年度使用額が生じた。室温保存試料の測定意義が高まれば、海水などで深度別に測定する必要性も増してくると考えられ、そのための特殊な採水器も購入の必要性が考えられる。令和4年度には、令和2,3年度の研究の結果生まれた新たな展開に必要となった部分も含めて事業を実施し、令和3年度に生じた次年度使用を令和4年度に有効に使用する予定である。

  • 研究成果

    (1件)

すべて 2021

すべて 学会発表 (1件)

  • [学会発表] 光分解を用いた溶存態リンのスペシエーションと分解効率に及ぼす過酸化水素の効果2021

    • 著者名/発表者名
      横井邦彦、山中雄介、永江あゆみ、久保埜公二
    • 学会等名
      日本分析化学会第70年会

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公開日: 2022-12-28  

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