研究実績の概要 |
リンの溶存態にはオルトリン酸(以下[P]),有機態リン化合物([OP])及びポリリン化合物([PP])があり,本研究代表者等は,185nmの紫外線を照射することにより[OP]のみを分解,定量し,全リン([TP])濃度と比較することで,[OP]と[PP]のスペシエーションを可能としてきた。市販のラムダDNAを500倍希釈した水溶液(約120 ppb(P))では,未処理の場合ほとんど[P]が検出されず,光照射するとリン酸ジエステル結合の95%以上が分解された。また,EXポリリン酸ナトリウム(重合度14及び130)の10万倍希釈水溶液(約170 ppb(P))でも未処理の場合ほとんど[P]が検出されず,加熱分解時に放出された[P]に対して光照射後は2%程度しか[P]が検出されなかった。これらの結果は,低分子量の化合物と同様の光応答が高分子量の[OP]や[PP]についても見られたことを示している。大阪近郊大和川水系河川水では[TP]470~840 ppb(P)の中に2.1~6.4%の[OP]並びに1.1~6.3%の[PP]が検出された。河川水を未ろ過のまま3週間程度振盪保存する間に[P], [OP]が減少し,[PP]が増加した場合や、[P], [PP]が減少し[OP]が増加した場合が見られた。一方,大阪中部の公園池から採水した試料では[TP]が10 ppb(P)程度であり,[PP]はほとんど検出されず保存中に[OP]が減少し[P]の増加が見られた。これらの変化は懸濁態への吸脱着,微生物の分解による放出などによる影響が表れていると考えている。近年[PP]が環境水中のリンの循環の中で[OP]と同等以上の重要性を持つと議論されているが,[OP]や[PP]の溶存態濃度を定量、比較した報告は世界的に見ても存在しない。海洋科学へ大きく貢献できる可能性が広がったと考えている。
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