研究実績の概要 |
ヒトiPS細胞からエリスロポエチン産生細胞への分化誘導過程の4段階(I, II, III, IV)において細胞をホルムアルデヒドにより固定し,ラマンイメージングデータを取得してスペクトル解析を行った。その結果,細胞の分化段階に応じてラマンスペクトルパターンが異なることが示された。まず,ステージIII, IVへと細胞が分化するにつれて,培養液中のジメチルスルホキシド(DMSO)が細胞に取り込まれる様子が確認され,エピジェネティクスの変化を引き起こすDMSOが細胞に影響を与えている可能性が示唆された。また,不飽和脂肪酸の濃度も細胞の分化とともに上昇する結果が得られ,分化段階に応じて脂質代謝が変化する様子も確認された。そして,ステージIIの細胞では,一時的に糖タンパク質の濃度が高くなる結果も示された。エリスロポエチンは,赤血球の生産を促進する糖タンパク質であり,エリスロポエチンを分泌するIII, IVのステージンの前の段階IIで,エリスロポエチンの原料となる糖タンパク質濃度が高くなることを示す結果が得られたことは,非常に興味深い。さらに,スペクトル解析で得られた結果を再現する結果を,ラマンイメージングにより可視化することに成功した。 本研究結果から,iPS細胞からエリスロポエチンへ分化する際の細胞内分子組成の変化をとらえることができ,分化段階に応じて時々刻々と変化する様子を捉えることができた。分化段階に特徴的な分子は,目的とする細胞の成熟度を判別する指標となる可能性がある。本手法は,iPS細胞の安定的,安全性を担保した細胞培養モニタリング技術への応用が期待される。
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