研究課題/領域番号 |
20K05558
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研究機関 | 神奈川大学 |
研究代表者 |
東海林 竜也 神奈川大学, 理学部, 准教授 (90701699)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 光ピンセット / 顕微蛍光分光法 / リポソーム / 光分解性物質 / ナノ構造増強光ピンセット |
研究実績の概要 |
薬物を体内の特定部位に、特定のタイミングで、特定の量を放出するドラッグデリバリーシステムにおいて、薬物を送達するナノカプセルの開発が極めて重要である。このナノカプセルの放出速度は、そのカプセルの粒径や形状、化学組成などに大きく依存すると考えられるが、これまでの分析手法では統計平均的な情報しか得ることが難しい。本研究は、溶液中に漂うドラッグデリバリーキャリア一粒を光圧により捕捉し、カプセル一粒からの分子放出過程を顕微分光学的手法により追跡する新たな分析手法の開発である。 2021年度において、カプセル剤としてリポソームを選定し、光分解性リポソームの作製と光捕捉に注力した。リポソームを構成するリン脂質の種類や組成比を検討し、光捕捉しやすい直径数マイクロメートルのリポソームを調製した。リポソームの崩壊速度を決定するために、リポソーム内部には蛍光性色素を導入した。しかしながら、光捕捉したリポソームそれ自体は水溶液中で安定的に構造を保持するため、リポソーム中にケージド化合物を導入し、紫外線照射に伴うリポソームの崩壊を促す方策をとった。顕微鏡下で捕捉したリポソームを選択的に崩壊させるために、新たに高輝度紫外線ランプを導入し、既存の光ピンセット顕微蛍光分光装置に設置した。 既存の集光レーザー型光ピンセット顕微分光装置に加え、本年度より新たな光ピンセット法の開発にも着手した。ひとつとして、チタンナノ構造体を化学的処理により作製する方法を確立し、構造体を用いた高分子微粒子の光捕捉に成功した。本手法の機能と特徴を明らかにすることで、光分解性リポソームの安定的な光捕捉と崩壊過程の追跡にも利用可能である。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
現在までに集光レーザー型光ピンセットによるリポソームの安定的な光捕捉に成功している。リポソームに作用する光圧を実験的に定量評価するために、画像解析よりリポソームに作用するバネ定数を決定した。また捕捉したリポソームに内包した蛍光分子の顕微蛍光スペクトルの取得に成功した。以上の成果は直径数マイクロメートルのリポソームを用いているが、ドラッグデリバリーシステムのためのキャリア剤を目指すと粒径はさらに小さくナノメートルオーダーになる。しかしながら、光圧は捕捉対象物の粒径が小さくなると急激に弱まるため、集光レーザー型光ピンセットによるナノサイズのリポソームの光捕捉が困難なときに備え、ナノ構造光ピンセットに代表される新たな光ピンセット法の開発にも着手した。 その一方で、光分解性リポソームの崩壊過程を顕微鏡下で観察するには至っておらず、また顕微蛍光の検出感度が十分でない、などの問題点も明らかになってきた。最終年度はこれら問題も解決し、以下に述べる方策をとり研究課題を完遂する。
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今後の研究の推進方策 |
最終年度である2022年度においては、主に以下3つの研究方策を実施する。第一に、顕微蛍光分光法の検出感度の向上である。光捕捉したリポソームからの蛍光強度が十分でなかったため、崩壊速度を決定するのが困難になると考えられる。そこで、共焦点光学系配置を構築するとともに、内包する蛍光分子の再選定や測定試料の改良も含めて蛍光強度の感度向上を果たす。第二に、光分解性リポソームの顕微鏡下での崩壊過程の観測である。高輝度紫外線ランプからの紫外線光を捕捉したリポソームに効率よく照射するために光学系を見直す。光分解性化合物のリポソーム導入量と光照度を最適化し、顕微蛍光測定による崩壊過程の追跡を試みる。第三に、リポソームからの分子放出速度のリポソーム粒径依存性を明らかにする。リポソーム一粒を光捕捉し、その崩壊過程を顕微蛍光強度の経時変化により追跡することで、放出速度の速度定数を決定する。
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次年度使用額が生じた理由 |
物品(消耗品)の納品時に金額の差異が発生した残額57円については、翌年度に繰り越し実験器具を購入する。
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