研究実績の概要 |
生体内電子移動反応の多くでは、蛋白質(酵素)が中心的な触媒機能を担っており、その触媒機能には蛋白質内のアミノ酸残基が酸化されて生じる蛋白質ラジカ ル中間体が大きく関与している。しかし蛋白質ラジカル種は一般に単寿命な不安定中間体である。そのため、蛋白質ラジカルの生成や反応性の制御は非常に困難な課題である。本研究では、酵素とその活性中心へ特異的に結合する小分子の作用機序に着目して、光増感化合物を基体とした酵素複合体を人工的に構築するための分子設計を検討し、その光誘起電子移動反応の解析と蛋白質内チロシンラジカルの位置選択的かつ安定な生成を試みてきた。 具体的には、光増感化合物の選択として、トリス(2,2'-ビピリジン)ルテニウム(II)錯体(Ru(bpy)3錯体)や1,8-ナフタルイミド化合物のような蛍光性化合物を元に新規設計した化合物を用いた。一方で、これか化合物を導入する酵素として、構造・機能が良く知ら れている加水分解酵素であるキモトリプシン(CHT)を選択した。CHTと結合が可能な阻害剤部位として、ベンゼンスルホニルフルオリド基を化合物へ導入した。そのうち、[Ru(bpy)(bsfbpy)]Cl2、[Ru(bsfbpy)3]Cl2で は、それぞれCHTとの溶液内混合により置換基末端がSer 195に共有結合し、[Ru(bpy)2(bsfbpy)]Cl2錯体ではCHTと等量反応したCHT-[Ru(bpy)2(bsfbpy)]2+複合体 を、[Ru(bsfbpy)3]Cl2ではCHTが1:2の割合で反応した2CHT-[Ru(bsfbpy)3]2+複合体を与えた。このような複合体に対し、発光特性や、メチルビオローゲン(MV2+)を電子受容体として用いたときの光誘起電子移動反応を検討し、蛋白質ラジカル生成を過渡吸収分光法等により確認した。
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