研究課題/領域番号 |
20K05569
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研究機関 | 岐阜薬科大学 |
研究代表者 |
江坂 幸宏 岐阜薬科大学, 薬学部, 教授 (70244530)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | DNA損傷 / RNA損傷 / 発がんリスクマーカー / LC/MS/MS / CEオンライン濃縮/ESI-MS / グリオーマ / テモゾロミド |
研究実績の概要 |
1.LC/MS/MSをプラットフォームとする実用発がんリスク検査法の包括的開発 1)塩基形態での損傷体抽出条件の最適化: 処理の簡潔な熱酸処理による損傷グアニンのDNA及びRNAからの定量的な解離条件と干渉成分(膨大な正常塩基大半)の除去目的の固相抽出条件を綿密に検討し、確立した。また、固相処理する場合に、極性の高い塩基体は添加時に保持が十分にしにくいことが判明し、諸条件検討した結果、水でなく、塩溶液への溶解で固相保持が達成され、以降の精製処理を可能にした。2)前処理抽出基材の開発:核酸塩基の補足・分離用として、ポリエチレンイミンで表面修飾した固定相を開発し、特徴的な濃縮水層が形成される新規固定相の開発を行った。3)メチル化グアニン分析への展開:生体DNAに検出される主なアルキル化グアニンの一部であるO6メチルグアニン、N7メチルグアニンを新たな対象とした定量法を確立した。グリオーマ培養細胞DNA中の抗がん剤テモゾロミド(TMZ)によって発生した上記メチル化体を定量し、修復酵素O6メチルグアニンDNAトランスフェラーゼ(MGMT)の発現量との相関、経時的な変動、MGMTの阻害剤の効果について検討した。MGMT高発現(TMZ耐性)と低発現のグリオーマへのTMZ投与とメチル化グアニン量の分析を行い、メチル化の差を定量的に確認した。4)生命のレギュレーションを担うRNAについて、その損傷を検出する方法を整備した。同じ損傷条件で、DNA中より20倍ほど高い頻度でRNA中に損傷体が見いだされた。 2.キャピラリー電気泳動(CE)オンライン濃縮-ESI-MS検出による革新的絶対感度獲得 CE法で必須の条件である塩基体での損傷体抽出法が確立された。処理試料を調製し、CEの濃縮法を結果が良好なLDIS法に決定し、LDIS-CZE-CESI-ESI-MS/MS法による実試料分析に着手した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
LC/MS/MSシステムを用いた方法論の整備、開発については、①1年目で基本部分を開発した分析法を元に、牛豚肝臓組織などのモデル実試料分析、今年度に新しく対象にしたRNA、培養細胞中で発現させたメチル化グアニンの分析を通して、課題を抽出し、特に前処理での改良を加えて、実用法としての完成を目指した検討を順調に行った。②2年目に予定していた、開発した分析法の実分析応用への展開という面では、今年度は抗がん剤投与した培養細胞の分析への展開を行い、成果を得た。即ち、抗がん剤によって生じた培養グリオーマのDNA中のメチルグアニンの定量を通して、より効果的な化学療法を実行するために有用な知見を獲得している。また、RNAの損傷を追跡した検討では、DNAより顕著に損傷を受けやすいことなど、RNA損傷分析が将来重要になる可能性も示した。③実試料分析において前処理技術の改良が常に求められており、今年度も、核酸塩基をなどの高極性分子の選択的抽出を目的とした新規の抽出用の固定相を開発した。本成果は、論文として発表されている。 CEオンライン濃縮-ESI-MSを用いた超高感度検出法としての方法論の開発については、前年に良好な結果を得たLDIS-CZE-CESI-ESI-MS/MS法を用いて、実試料の測定に着手した。動物組織試料の分析を通して、実分析における主に前処理における課題の抽出を行い、ほぼ解決に至った。
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今後の研究の推進方策 |
1.LC/MS/MSをプラットホームとする実用発がんリスク検査法の包括的開発:実分析への展開を行い、フィードバックによる手法の改良と完成を目指す。①アセトアルデヒド(AA)による核酸損傷の分析については、開発手法を用いて、AA供与した培養細胞、マウスを対象に、DNA, RNAの分析を実際に行う。また、分析法を実用性の観点から改良し、ヒト核酸分析可能な手法にする。必要なケースでは、他機関のより高感度な質量分析の使用も検討する。②アルキル化抗がん剤TMZの投与効果を高める観点で、TMZの添加条件、修復酵素MGMTの阻害剤の添加条件を変化させながら、実際のメチルグアニン発現頻度を定量的にモニターして、それをもとにしたTMZの作用機序の考察から、グリオーマ細胞を効率的に減少・死滅にいたる要素の解明を目指す。 2.エレクトロスプレーイオン化効率の向上による感度向上:物理的アプローチ(ナノESIシステムの導入)と化学的アプローチ(ガスイオン化を促進する溶媒、マトリックス物質の選択)からの検討を継続する。 3.キャピラリー電気泳動(CE)オンライン濃縮-ESI-MS検出による革新的絶対感度獲得 :最適化された固相処理と回収効率の補正を行う同位体ISの利用によって手法を完成し、実試料分析で性能を確認する。 4.CEオンライン濃縮-レーザー蛍光検出による革新的感度獲得: CEオンライン濃縮を本年導入予定のレーザー蛍光検出システムに結合し、新しい損傷塩基の超高感度手法を開発する。
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次年度使用額が生じた理由 |
半導体不足、海外渡航制限、学会の現地開催のとりやめなど、様々な面でコロナ禍の影響があり、当初の予算執行計画の見直しを行った。外注のナノESIプローブの生産が間に合わず、既存の装置の改造で対応中であり、この予算及び初年度にMS用のロータリーポンプに充てる予定であった費用を合わせて、最終年度に集中的に行う実分析に必要な機器購入をする計画である。具体的には生体組織、培養細胞保存のための大型の冷凍庫、分析に必要なHPLCポンプの購入に充てる(発注済)。また、DNA損傷体の新しい高感度検出系としてレーザー蛍光システムを導入する計画であり、その半導体レーザーも前年度予算ですでに購入したが、新製品が開発され、大幅な価格低下が実現した。学会開催がほとんどWeb開催となり、旅費(5万円)が執行されなかった。以上の理由 で、最終年度(R4)使用額(B-A)の額がやや多くなった。
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