研究課題/領域番号 |
20K05570
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研究機関 | 立教大学 |
研究代表者 |
宮部 寛志 立教大学, 理学部, 教授 (10281015)
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研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
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キーワード | 分子間相互作用 / 界面透過 / 分子集合体 / リポソーム / ミセル / 包接反応 |
研究実績の概要 |
分子間相互作用や分子集合体の界面における物質透過の速度定数を解析的に求める方法を開発する。高速液体クロマトグラフィー(HPLC)により測定する溶出ピークの形状的特徴をモーメント理論により解析して目的の速度定数を求める。その際、以下の要件を考慮して解析法を開発する。(1)分子の固定化や化学修飾(蛍光標識化)を必要とせず、分子間の本来の相互作用情報をより正確に解析して会合速度定数(ka)と解離速度定数(kd)を定量的に取得することができる。(2)分子集合体(界面活性剤ミセルやリポソーム等)に何等かの化学反応や物理作用を施すことなく、その本来の存在状態により近い実験条件下において外部バルク相から分子集合体内部への界面透過速度定数(kin)、および分子集合体内部から外部バルク相への界面透過速度定数(kout)を定量的に測定することができる。 本年度はモーメント解析法の妥当性を実証するため、昨年度開発したHPLCデータ解析用モーメント式を利用して分子間相互作用および界面物質透過現象の解析に関する実証実験を以下のように実施した。(1)包接反応系の分子間相互作用:クラウンエーテルや金属イオンの種類を変化させ、クラウンエーテル-金属イオン間の分子間相互作用に対するクラウンエーテルの内部空孔径と金属イオンサイズの関係等の影響について検討した。(2)界面活性剤ミセル系の界面透過現象:レゾルシノールの同族体や異性体を溶質として使用し、ドデシル硫酸ナトリウム(SDS)ミセル界面における溶質の透過現象を解析した。キャピラリー電気泳動(CE)による実験結果との比較により本法による解析結果の妥当性を確認した。(3)タンパク質-化合物間相互作用:逆相液体クロマトグラフィー(RPLC)系を利用し、牛血清アルブミン(BSA)とメチルオレンジの組み合わせをモデル実験系として両者間の相互作用を解析した。
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現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
昨年度開発したHPLCデータ解析用モーメント式を利用し、いくつかの実験系において分子間相互作用および分子集合体界面における物質透過現象を解析した。実験条件(化学種の種類等)を変化させた実験系、および昨年度未着手であった実験系について検討を行い、本解析法の有用性を実証した。 (1)包接反応系の分子間相互作用:RPLC系を利用し、クラウンエーテル-金属イオン間の包接反応を解析した。ジベンゾ-18-クラウン-6-エーテルとアルカリ土類金属イオンの相互作用を解析し、会合平衡定数(KA)、kaおよびkdを求めた。クラウンエーテルの内部空孔径と金属イオンサイズとの大小関係や両者の一致度とKA、kaおよびkd値との関連性に関する検討を行った。 (2)界面活性剤ミセル系の界面透過現象:RPLC系を利用し、SDSミセル界面における溶質の透過現象を解析した。溶質としてレゾルシノールの他に、クレゾールやヒドロキノン(ベンゼンの2水酸基置換体)およびフェノールとピロガロール(ベンゼンの1水酸基および3水酸基置換体)を使用して界面透過現象を解析し、溶質の分配平衡定数(Kp)、kinおよびkoutを求めた。また、比較データを取得するためのCE法に関する検討を行い、全充填操作法だけではなく部分注入操作法についてもモーメント理論に基づく解析体系を構築した。 (3)タンパク質-化合物間相互作用:当初、SEC系の利用によるBSAとメチルオレンジとの相互作用の解析を試みたが、SECモードでのHPLC分離が実現できなかったため、RPLC系を利用して検討を行った。移動相中のBSA濃度を段階的に変化させ、メチルオレンジの溶出ピークを測定した。その一次絶対モーメントと二次中央モーメント(保持時間と分散に各々対応)を解析し、KA、kaおよびkd値の定量的な導出が可能であることを実証した。
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今後の研究の推進方策 |
昨年度から実験的検討を行っているクラウンエーテル-金属イオン間相互作用については、引き続きクラウンエーテル環のサイズや金属イオンの種類を変化させてkaとkd値の変化を調べ、分子間相互作用の速度に対する両者のサイズの影響等について検討を行う。 また、界面活性剤ミセル界面における物質透過現象については、アルキル硫酸型界面活性剤に加えて第4級アンモニウム型界面活性剤も加えて、kinとkout値に対するアルキル鎖長や電荷の影響を明らかにする。 リポソーム界面における物質透過現象の解析については、新たな実験手法として「部分注入HPLC法」を導入してSDSミセル界面における物質透過速度を測定し、最初に実験操作や解析手順の予備的検討を行う。その後、その知見に基づきリポソーム界面における物質透過現象の解析について実験的検討を実施する。例えば、1-パルミトイル-2-オレイル-sn-グリセロ-3-フォスファチジルコリン(POPC)とフォスファチジルセリン(PS)を使用し、膜を用いる押し出し法により両者から成るPOPC/PS(60/40 mol%)リポソーム(粒子径:約100 nm)を調製する。脂質二分子膜を透過することが他研究の結果明らかになっているカルバマゼピンやクマリン等を溶質として使用し、kinとkout値の測定が可能であることを実証する。「部分注入HPLC法」はこれまでにない実験操作法であるため、正確な実験データを測定するための技術習得が一部必要になる。
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次年度使用額が生じた理由 |
2021年度にはいくつかの具体的実験系にモーメント解析法を適用し、分子間相互作用および分子集合体界面における物質透過現象に関わる平衡定数および速度定数を求めてその有用性を実証した。HPLC実験は主にRPLC系で行い、必要に応じてカラムを複数本新規購入した。そのため、次年度に繰り越す予算は多くはない。2022年度にはリポソーム界面における物質透過現象の解析について実験的検討を開始するが、リン脂質は比較的高価であるため繰越予算はその購入費用に充当する予定である。
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