研究課題
本研究課題では、高水溶性化合物の高度な捕捉を可能にすることで、現状では困難な前処理をも可能にする技術の確立を目指し、親水性相互作用クロマトグラフィー(HILIC)型の固相抽出剤の開発に取り組んでいる。HILIC型固相抽出剤の高性能化においては、固相抽出剤表面に形成される水和層の安定性が高水溶性化合物の捕捉特性に大きな影響を与えるものと考えられる。令和三年度については、安定な水和層を形成可能な固相抽出剤の開発を目指し、令和二年度の研究成果の一つであるHILIC型固相抽出剤に適用可能と推定された基材樹脂を選択し、①令和二年度より継続している水和層形成に必要な各種親水性高分子の被覆条件の最適化およびそれらにおける捕捉特性の比較評価、②HILICモードにおける固相抽出効率の向上に関する検討、の二つについて研究を遂行した。以下にそれぞれについて概説する。①令和二年度に引き続き、水和層形成の必須要件である親水性高分子の種類およびそれらの被覆条件について精査した。その結果、両性イオン型の親水性高分子に加えて、ポリアミン系高分子を基材樹脂に被覆した固相抽出剤が、高水溶性化合物に対して高い捕捉能を示すことが明らかとなった。②①で得られたHILICモード型固相抽出剤を用いて高水溶性化合物の固相抽出を行い、HILICモードにおける固相抽出条件に関して基礎的検討を行った。主に試料負荷条件について抽出回収率への影響を調べたところ、負荷試料中の水濃度が高水溶性化合物の抽出回収率に大きく影響を及ぼすことが明らかとなった。
2: おおむね順調に進展している
令和三年度は、令和二年度の研究成果である親水性高分子被覆用基材樹脂を用い、被覆する親水性高分子の種類およびその被覆条件についてさらに研究を進めた。その結果、両性イオン型の親水性高分子に加えて、ポリアミン系高分子も安定な水和層の形成に有効であることを見出した。ポリアミン系高分子については、分子量の捕捉特性への影響についても精査し,高分子量のものほど高い抽出回収率を示すことが明らかとなった。また、得られたHILIC型固相抽出剤を用いてHILICモードにおける固相抽出条件の抽出回収率への影響について調べ、負荷試料溶液の水濃度が抽出回収率に大きな影響を与えることを明らかにすることができた。これらの知見は、今後の捕捉特性改善における重要な結果であると思われる。以上のことより本研究課題の進捗状況は、全体としておおむね順調に進展しているものと判断される。
令和三年度までの検討により、数種類のHILIC型固相抽出剤の開発を達成している。それに加えて、HILICモードを利用した固相抽出条件に関しても、高い捕捉特性を発現可能な条件をいくつか見出すことに成功している。これら条件の組み合わせについて、さらなる最適化を進めることにより、より高い捕捉能を有する固相抽出剤の開発および固相抽出条件の確立について検討を進める予定である。また、これらの知見を基盤技術とし、現状で報告されているHILICモードでの固相抽出が適用されているような分析対象物について、我々が開発した固相抽出剤の有用性に関する精査も進める予定である。令和三年度の成果であるポリアミン系高分子被覆固相抽出剤は高い反応性を有しており,新たな官能基を導入することによりこれまでにない新規な機能を創出できる可能性がある。この点に関しては,令和三年度内で一部検討を開始したところであるが,この官能基修飾による捕捉特性の変化についても捕捉特性評価と並行して精査する予定である。
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