四極子相互作用による異方性と早い緩和によりNMRスペクトルが広幅化(NMR信号が短時間化)し、NMR測定が非常に困難となる。これは、高出力の励起信号の残余成分(リンギング)が、それに続くNMR信号を完全に隠蔽してしまうためである。本研究では、これに対処するためにリンギングを劇的に減らす分光計とプローブの開発を行っている。 昨年度に開発したデュプレキサの改良を行いながら、さまざまな条件に対して測定を行い性能を確認した。その過程で、各種製作した回路から発生するリンギング量を正確に評価する必要が発生した。そのための評価システムを開発し、それぞれの部品や回路から発生するリンギング量を数値化することで、改良によりリンギングが増加したのか、減少したのか、正確に判断できるようになった。実際、この方法を活かして昨年度まで見落としていたリンギング発生源を特定し改良することができた。 さらに、リンギング対策を進化させたものとして、送受信分離型プローブへの実装を行った。送受信分離型では、送信コイルと受信コイルを直交させることによって送信コイルの励起信号が受信コイル側に混入しないようにする方法である。理論上では、完全に直交であれば、無限大の絶縁強度が得られるが、実際にはわずかな漏れがありリンギングをゼロにすることはできない。また、送受信分離型にすることで、送信コイルもしくは受信コイルの性能が犠牲になる弱点がある。この弱点を上回る利点があれば、送受信分離型もリンギング対策としては有効である。本研究では、送受信分離型コイルを持つプローブを開発し、上記デュプレキサと組み合わせることで、よりリンギングが少なく、四極子核測定に適したプローブを開発できた。 またこれらの技術について特許出願をすでに行ったおり、現在補正手続き中である。
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