研究課題/領域番号 |
20K05575
|
研究機関 | 国立研究開発法人産業技術総合研究所 |
研究代表者 |
浅川 大樹 国立研究開発法人産業技術総合研究所, 計量標準総合センター, 主任研究員 (60584365)
|
研究期間 (年度) |
2020-04-01 – 2023-03-31
|
キーワード | タンデム質量分析法 / ラジカル分解 / ペプチド / 翻訳後修飾 / マトリックス支援レーザー脱離イオン化 |
研究実績の概要 |
タンパク質の硫酸化は最も重要な翻訳後修飾の一つであるにも関わらず、硫酸化のメカニズムや、生体内における詳細な機能は明らかにされていない。本研究はタンパク質の網羅的な計測に広く用いられている質量分析法を用いて、タンパク質の硫酸化の本質を理解するための分析基盤の構築を目的とした。 硫酸化をはじめとした翻訳後修飾を含むペプチドは従来の衝突活性化による解離手法を用いるタンデム質量分析法では、アミノ酸配列の解析が困難である。我々が開発しているラジカル分解を利用したタンデム質量質量分析法は、これまで分析が難しかった硫酸化ペプチドをはじめとする翻訳後修飾ペプチドの正確なアミノ酸配列解析を可能にする分析手法として注目されている。本研究では特に、マトリックス支援レーザー脱離イオン化法を基盤としたラジカル分解-質量分析技術の開発を行った。まず、ペプチドをマトリックス支援レーザー脱離イオン化で気相イオンとし、イオントラップに蓄積した。その後、水素ラジカルの照射によってラジカル分解を誘起し、生成物を飛行時間質量分析装置で検出した。水素ラジカルとペプチドの気相反応において、照射する水素ラジカルの密度、および温度がペプチドの分解効率の向上のために重要であることを明らかにした。このペプチドイオンへの高温水素ラジカル照射によって、水素ラジカルはペプチド結合のカルボニル酸素およびカルボニル炭素への水素ラジカル付加により、それぞれペプチドのN-Ca結合、CαーC結合の選択的な切断が起こることを明らかにした。 またタンパク質、アミノ酸から生成される代謝物のLC/MS/MSによる定量分析法についても研究を行った。
|
現在までの達成度 (区分) |
現在までの達成度 (区分)
2: おおむね順調に進展している
理由
硫酸化を含む翻訳後修飾を含むペプチドのアミノ酸解析を正確に行うためには、質量分析装置内で起こるラジカル分解の効率化と、分解過程の理解が必要である。ペプチドイオンと水素ラジカルの気相反応について、照射する水素ラジカルの密度および温度が重要なパラメーターであることを明らかとし、ペプチドのラジカル分解の高効率化に繋がる重要な知見を得た。 メカニズムの理解については、水素ラジカルはペプチド結合のカルボニル酸素およびカルボニル炭素への水素ラジカル付加により、それぞれペプチドのN-Ca結合、CαーC結合の選択的なラジカル解離が起こることを明らかにした。これにより、翻訳後修飾ペプチドのアミノ酸配列を正確に分析することが可能となる。
|
今後の研究の推進方策 |
より高温、高密度の水素ラジカル照射システムを構築し、ペプチドのラジカル分解効率の向上を目指す。また現在まで主に正イオンの計測を対象とした質量分析法を用いて実験を行っていが、硫酸化ペプチドの分析には負イオンの計測が適している。ペプチド負イオンについても本ラジカル分解法が有効であることは確認しているが、より効率的に分析を行うために、負イオンの計測の最適化を行う。
|
次年度使用額が生じた理由 |
昨今のCOVID19のパンデミックにより予定していた国内外の学会が中止、延期またはオンライン開催となり、計上していた出張費の使用がなかった。 当該助成金は今年度以降の実験消耗品等に充てる計画である。
|