研究実績の概要 |
2022年度は夏季湿性沈着試料を山岳地域(5地点)および都市域(1地点)から採取を行い、計18試料を得た。微量元素分析(V, Ni, Cd, Pb)を行い、これまでに得られたデータと合わせて解析を実施し、四国の標高1000m以上の山岳で採取された湿性沈着は、日本海側の山岳とほぼ同じ微量元素組成(濃度比)を示すこと、標高の低い山岳および都市部ではV、Cdの存在比が上昇し国内からの寄与があることが示された。特にV/Pb比は東アジア大陸からの空気塊の移動経路によって分類でき、VとPb濃度が比例関係を持つこと、国内からの寄与がある場合にはその比例関係から外れることは新規の知見である。当該結果をAnaliticalScience誌において報告した。(Yamamoto et al. 2023, Anal. Sci., 39, 679) MC-ICP-MSによるPb同位体比測定について、従来法ではPb 1ppb程度で精度良く測定できることが報告されていたが、湿性沈着試料ではPb 1ppbであっても共存するアルカリ金属、アルカリ土類金属元素の影響で精度が低下する可能性が示された。固相抽出法により妨害元素を分離することで精度低下を低減できることが本研究によって示された。 前年度までに山岳地域での冬季湿性沈着および夏季湿性沈着においてPb同位体比の比較から長距離輸送物質の寄与が示され、都市部では一部の試料に国内からの石炭飛灰とゴミ焼却飛灰の寄与が示されていた。本年度は同位体比の解析に指紋法を用いることで、寄与率推定を実施した。その結果、湿性沈着中のPbは最大で石炭飛灰20%、ゴミ焼却飛灰90%の寄与があることが示された。 微量元素の濃度比およびPb同位体比に基づきエアロゾル中の人為起源物質について国内および国外の寄与率を求めることができ、人為起源物質の輸送挙動の評価に有用な指標であることを示した。
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